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12/2(月)

少し前を歩いていた足が、歩みを止めてこちらを向く。 「だからおっせぇんだよ、お前はよぉ。」 足から視線を上げて見上げた長岡の顔は、予想通りひどく不機嫌そうで、俺も同じように眉をひそめて見つめ返す。 今は期末試験の部活動停止期間で、部活の無い長岡は何故か俺と同じ時間に家を出て俺の隣を歩いている。…まぁ実際は俺の歩みが遅いから俺の少し前を歩いているんだが。 「別に誰も一緒に登校してくれなんて頼んでないだろ。俺が遅いならさっさと置いて1人で行けよ。」 そう言った俺を長岡は更に不機嫌そうに見つめて、突然に俺の正面まで戻ってきたかと思ったら俺の手を握ってきた。しかも指まで絡めて。 「何して…っ離せよ!」 「遅えんだったら連れてくしかねぇだろ。」 「俺のことなんか放っとけば良いだろ!」 叫ぶようにそう伝えると長岡は俺の怒鳴り声が不快だと顔全体で表しながら下にある俺の顔を見下ろす。 「せっかく笠井も居なくなったんだからなるべく一緒に居てぇだろうが。お前はほんと一筋縄じゃいかねぇんだからよぉ。」 「…!?なに…言って…。」 一緒に居たいって…それって…、いや、でも、だから、長岡が俺を好きになる理由なんて無いから…だから…、と自分に言い聞かせながら俯いていると、不意に長岡が俺の耳を甘噛みしてきた。 「っ…!ここ!外!!」 「はっ。屋内なら良いって意味?」 焦って見上げた俺を長岡は鼻で笑うと「違う!」と言い返した俺を更に笑った。 「っ手ぇ離せ!」 勢いを付けて振り払った手を見ながら、はぁ、とため息を吐く。 長岡と登校だなんて…気が重すぎる…。前回もそうだったけど前回は宗平が──… そう考えて、先程まできちんと前に出せていたはずの足が急に重くなって動きが止まった。 それに気付いた長岡がこちらを振り返り声を掛けるけど、俺はそれにも答えられずに立ち尽くしたまま。 あぁ。あの角で、宗平が俺を抱き竦めた…。 テストだからと履いた靴。長岡と言い合いながら開けた玄関扉。今この瞬間まで、長岡に気を取られて思い出さなかった宗平とのこと…。 ───ガッ と腕を取られ驚いて隣を見上げた。 「行くんだろ?学校。」 全てを見透かしたような長岡の声。 宗平をフッたことに自分自身でショックを受けているなんて、宗平には知られたくないのを、長岡もきっと知っている。 「ん…。」 頷き小幅に歩き出した俺に、長岡が大きく溜め息を吐いたが、それでも長岡は俺の隣を歩いた。 そうして長岡はテストが終わる週末まで俺と一緒に登校を続けた。

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