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1/8(水)
あぁ…冬休みが…終わってしまった…。
以前は長岡と居るのが嫌で、土日になる度に早く平日にならないかと願ってばかりいたというのに、宗平に会うのが憂鬱でずっと休みのままでいればいいのにと思う日が来るなんて…。
「だーから、おっせぇんだよ。お前。」
長岡が文句を言いながら振り返り、俺はいつものように眉を寄せた。
「そもそも歩幅が小せぇんだよ。もっと前に足出せんだろ。」
「そんなん言われたって…身長だって全然違うんだから脚の長さが違うのは仕方ないことだろ。」
ムスッとしながら言い返した俺をそれでも長岡は置いていくことはしなくて、新学期早々、不機嫌な長岡と、長岡から視線を外して顰め面のままの俺は、揃って校門を通り抜けた。
「まじで遅刻ギリギリじゃねーか。」
そう言いながら壁に掛かった時計を見て、長岡は自分のクラスの靴箱に足早に向かう。
長岡ってかなりひねくれた性格をしていると思うんだが、意外と真面目だ…。その真面目な雰囲気は小学生時代の長岡を彷彿とさせて、俺に対する態度との違いに、何かで上から塗り潰されたような歪さを感じていた。
まぁ、俺を恨んでいるんだって考えれば他と違うのも当然なんだけど。
と、そんなことを考えながら履き替えた靴を仕舞っているとバタバタと校門側から駆けてくる足音が聞こえてきた。
音のしてきた方に顔を向けて、息を飲む。
「……。」
互いに、何も、言えない。
俺を凝視したまま微動だにしない宗平と、同じように動けない俺。校庭の方からは「あと1分で鐘鳴るぞー!」と張り上げる生活指導の先生の大きな声。
「おい、春人。急がねぇとやべぇぞ。」
宗平と向かい合う俺に長岡が後ろから声を掛けてきて、俺はそれにビクッと小さく跳ねた。
「あ…と…。」
宗平にこうやって会ってしまって、しかも新年の新学期。何も挨拶を交わさないのは人としてどうかとも思えたのだが、今更どんな顔して挨拶をすれば良いのか分からない。
長岡から視線を宗平に戻した俺は、ただじっと見つめるだけの宗平を見て更に惑う。
「おい。行くぞ。」
長岡が後ろから俺の首に腕を回して、首を締めるようにグッと後ろに引いた。けどそれと同じタイミングで前からも力がかかって、俺は本当に首を締められたような形になり少し息苦しくなる。
前方に視線をやると…宗平が俺の手を掴んでいた。
「…裕大、クラス違うだろ。」
「別に途中までは同じ方向なんだから良いだろ。つーか笠井に関係無くね?」
咎めた宗平に長岡が言い被せるように答えて、それを聞いた宗平の、俺を掴む手に微かに力が篭もった。
「あ…の…、俺は、宗平…と、教室行くから…。」
迷ったが俺はこのまま宗平と挨拶も交わせないままだなんて嫌で、長岡にそう言って首にかかる腕を軽く掴んだ。
「お前は…」
長岡はそう何かを言いかけていたが、後ろから来たクラスメイトらしき生徒に声を掛けられてしまった。それに小さく舌打ちした後、俺の首から腕を離してパッと振り返った長岡はその生徒に応えて共に教室へと向かって行った。そのすぐ後に聞こえてきた始業の鐘。
それでも俺と、俺の手を掴む宗平は何も言えずに黙って向かい合ったまま。
「っ…えっと…、あけまして…おめでとう。宗平…。」
言い淀みながら言うと宗平は少し悲しそうに笑って同じように「あけましておめでとう。」と言ってくる。
「今年も…よろしくな。」
最後に宗平に言われた言葉に涙が出そうになる。
繋がれたままだった手をゆっくり動かして解くと宗平に背を向けて先にその場を後にした。
でも俺は結局泣いてしまって、始業式をすっぽかし、新年早々瑛二に少し怒られた。
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