111 / 216

1/16(木)

恐れていたことが…起きてしまった…。瑛二が、風邪をひいて学校を休んでしまった…。 ガヤガヤと俺のことなんて気にも留めないで授業前の会話を楽しむ周囲の中で、何もやることが無いので、ただ席に着いてなんとなくパラパラとノートを捲る。 宗平をフッた時に1人になることは覚悟していたというのに、いざこうして瑛二さえ居なくなるといつもの教室であるはずのそこで、俺は酷く身の置き場に困る。 どうしよう…。いや、どうもしないんだけど。俺が1人で居たって誰も気にならないし…。誰も──… そう自分に言い聞かせながらそれでも周りが気になってなんとなく視線を泳がせていると、宗平と目が合った。 「!!」 思わず顔ごと向きを変えて、視線を外す。 なんで?宗平…俺のこと見てた…? バクバクとうるさく鳴る胸を落ち着かせようと強く目を瞑っていた俺の手に、不意に誰かの手が重なった。 驚いて顔を上げて確認するとそこには宗平の姿が…。それを見た俺は、勢いよく席を立つと急いで教室から出て行く。 ダメだ。俺は本当に弱いから…。 きっと俺は宗平に優しくされたらすぐに擦り寄って行ってしまうだろう。それは宗平にとって良くない結果しか招かないだろうし、俺もいつまで経っても前に進めないままだ。 長岡とも…宗平とも…きちんと距離を置かなければ…。 宗平に対して自分は害しか成せない存在なのだと自己を否定したところに、以前からの長岡の発言を受けて、自分の存在価値をそこに見出そうとしていた脆弱な意思。 でも本当に長岡に対して罪滅ぼしをしたいのならこんなやり方に従うのはやはり間違っているだろうし、宗平には出来ないと思ったことを長岡にはしてしまうなんて矛盾している。 最近は長岡と普通に会話することも増えたし、俺はどうすれば長岡との過去を精算できるのか今度こそハッキリ確認しよう。 そして宗平とは…時間をかけてお互いの存在を忘れていくしかないだろう。 そう、人気の無い廊下まで来ると端で蹲り、強く手を握り合わせて自分に言い聞かせる。 2人の今後を守るために。 邪魔な俺を彼らの人生から消すために。 そして聞こえてきた始業の鐘で急いで教室へと帰った俺は、その後の休み時間はとりあえず教室から出てフラフラと校内を歩き回った。 だがそんな俺を放課後、宗平が捕まえた。 「明日も瑛二休みなら…俺らといようぜ。」 少し寂しそうに見つめながら遠慮勝ちにそう提案してきた宗平。 今朝同様うるさく脈打っていた心臓は、そんな宗平を見て更に鼓動を激しくさせ、そこにギュウウッと締め付けるような圧迫感も加わり、俺は上手く呼吸ができなくなっていく。 この息苦しさの意味は…知っている。 でも… 「ありがとう。でも大丈夫だから。」 なるべく気取られないように、静かに手を払う。 そして翌日も瑛二は休みだったのだが、俺は休み時間の度に教室を出るようにして、宗平と言葉を交わすことはしなかった。

ともだちにシェアしよう!