115 / 207
1/24(金) 2
宗平と2人、並んで歩く帰り道。
宗平の帰り道はこちらではないのだが俺を送ってくれるのだという。隣を歩く宗平の顔もなんだか見れないし、見慣れているはずの景色が全く別のものに見えてきて俺はいつもの曲がり角をうっかり通り過ぎそうになる。
「春人。道こっちだろ。」
「え!?あ、うん!?」
突然掛けられた声に驚いて顔を上げた俺に宗平は「緊張しすぎ。」と言って笑って俺の手に指を絡めてきた。いわゆる恋人繋ぎ。冷えきった俺の手に宗平は「冷たっ。」と言ってきたけど…そうじゃなくて…!
「宗平っここ、外…!」
「もう日も沈んだしこっから人通り少ない道だろ?…ダメ?」
そう言って少し眉を下げた宗平の顔が街灯に照らされて寂しさを助長する。
今まで散々待たせて拒絶してきたんだからこれくらい受け入れるべきなのか?いや、でもでも…
とかそんなことを考えていたらただでさえ暗かった視界が急に陰って「え?」と思って視線を上げると目の前には間近に迫った宗平の顔。
反射的に後ろに後ずさって距離を取る。
「…ダメなの?」
「ダメ!」
不満そうに問い掛けてきた宗平に強く言い返す。
ダメに決まってる!外でキスなんて!こんな誰が見ているかも分からない路上で!!
2人でなら辛い批判や非難も耐えられそうだと思いはしたが、わざわざ自らそれらの状況を招きたい訳ではないのだから。
「教室ではしたのに。」
「あれは…周りに誰も居なかったから…!」
「ここも誰もいねぇって。」
「周り民家だから!」
すかさず言い返した俺に宗平は変わらず納得いかないと言いたげな表情を向ける。
「っ………手は…繋いでて良いから…。」
妥協点を探して苦し紛れにそう言って片手を差し出すと、宗平はそれで満足したのか嬉しそうに微笑んで「じゃあキスはまた今度な。」と言って俺の手を取った。
何の宣言なんだ…と頭の中でつっこむが同時に少し嬉しくてニヤついてしまったりする。そんな表情は夜の闇の中に隠す。
人気の無い道を2人で手を繋いで歩いた。何も特別な会話なんてしなかったけど、それだけで充分幸せ。
「…よぉ。」
だがそんな俺たちに前方から声がかかる。
家の前の街灯の下…表情はよく見えないが長岡が壁に凭れてこちらを見ていた…。
「部活来なかったと思ったら…そういうことかよ。」
そう長岡が呟くように言って、それを聞いた宗平の、俺の手に絡んだままの指に少し力が篭もる…が、宗平は不意にそれを解いてツカツカと長岡に歩み寄ると突然ガッと殴りかかった。
長岡はそれを甘んじて受け入れ少し眉を寄せて宗平を見据えている。
何が起こったのか分からなくてワタワタとする俺を他所に宗平は「春人と付き合うことになったから。」と長岡に宣言した。
何も間違っていないし、手を繋いでいた俺たちの姿から察するのは容易だったろうが、改めてハッキリと言葉にされると恥ずかしくて仕方がない…っていや、それよりもなんで突然殴ったんだ。
険悪な雰囲気の2人の間に割って入り宗平に、家の前でケンカはマズイと言いながら制す。
「ケンカじゃねーよ。そういう約束だったの。」
え?殴られる約束?長岡ってそういう趣味?
少し引きながら振り返った俺を長岡は冷たく見下ろす。
「笠井と付き合えて幸せ?」
「っ…」
問いかけてきた長岡に言葉が出ない。
幸せかと聞かれたら間違いなく「YES」なのだが、長岡の前でそんなこととても答える気にはなれなかった。
長岡の復讐対象の俺。長岡を利用しようとした…浅ましく狡い俺…。
「んなの聞くまでも無ぇだろ。」
だが答えない俺に代わって後ろから宗平が俺の肩に腕を回して抱き寄せる。
「ちょっと…宗平っ…。」
突き刺さる長岡の視線が居た堪れなくてもがいた俺に1度笑うと長岡は家の中へと入っていった。
「裕大、殴られるためだけに待ってたんかな。律儀。」
絶対違うと分かっているのにそんなことを呟いた宗平に少し笑う。
…ザワザワと波立つ心の内を無視するように。
ともだちにシェアしよう!