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2/1(土)

平日は朝も放課後も宗平は部活だし、学校でベタベタなんて出来ないし…する気も無いので、付き合いだして生活の何が変わったかと聞かれても特筆するようなことは何も無い。 強いて言うなら今週2回ほど夜に宗平から電話が掛かってきたこと。 まぁまだ付き合って1週間だしこれがずっと続くのかはよく分からないけれど俺としては初めて画面を見た時に「え?」となってしまった。宗平から夜に電話を貰ったことなんて今まで無かったし、普通に宿題の範囲をメモし忘れたのかな?と思って電話に出た俺は「声聞きたくて。」と言ってきた宗平の予想外な発言に思わず枕をバシバシと叩いた。 あー、世の付き合っている人たちは日々こんなやり取りをしているのか…。 心臓がバクバクと早く鼓動して落ち着かなかったが、嫌いではない…むしろ好きなその雰囲気。 好きな人と付き合うってやっぱり特別だ。 そして昨日の夜の電話でまたデートに行こうと誘われたのだがそこで俺は待ってましたとばかりに「部屋デート」を提案した。 というのも先週のデートで宗平がプレゼントしてくれた手袋…あれは高校生の俺たちにはなかなか高い買い物だったと思う。宗平は事も無げに買ってくれたが、バイトもしていない宗平にはきっと手痛い出費だったに違いない。 宗平は冗談交じりに『何?そういうお誘い?』と聞いてきたがそれは速攻否定してとにかく今回は宗平の家で2人で過ごそうということで話を纏めた。 朝、宗平の家に行くべく少し普段よりも気合いを入れた服を着て洗面台の前で髪の毛を捏ねくり回していた俺を見つけた長岡が声を掛けてきた。 「笠井と会うのか?」 「…。」 答えるのが嫌とかではなくて…単純に答えづらくて黙った俺を長岡は静かに見つめる。 「お前って…どうやったら手に入んの?」 少し、不安そうに、でも…苛立ちを滲ませて問い掛けてきたそれに、俺はまたしても答えられない。 そんな俺の前まで歩み寄ってきた長岡は突然に俺の顔を上向かせるとセットしたばかりの髪に指を差し込んでキスをしてきた。 「っ!」 軽く啄むように喰まれたと思ったらガリリと強い衝撃が襲い、それに全身が飛び上がって思いきり長岡の体を突き飛ばした。 口の中には鉄錆の味。 唇…噛まれた…!! 初めてのことにショックを受けて呆然とする俺を見て長岡はいつものように緩く笑うと「またな。」と言ってその場を後にした。 呆けたままだった俺がしっかりと意識を覚醒させて出掛ける準備を再開させたのが何分後だったのか…よく分からなかったが、結局家を出たのは予定した時刻を少し過ぎてしまっていて、俺は走って宗平の家に向かった。

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