119 / 216

2/1(土) 2

家にやってきた俺を出迎えてくれた宗平は、久々の来訪にテンションが上がっているらしい幸広くんを追い払って部屋へと案内した。 「幸広くん、久しぶりに会ったのに…。」 宗平に怒られた後に両親にも叱られてしまった幸広くんの悲しそうな声が部屋に入る前に階段下から聞こえてきたので、なんだか可哀想でそう言うと宗平は少し唇を尖らせる。 「俺は春人と2人で居てぇの。」 そう言って宗平は床に置いたクッションに腰掛けると隣のクッションを軽く叩いて座るよう示してくる。 「…。」 用意しておいたらしいコップにジュースを注ぐ宗平の隣に座って……体を宗平の方に傾けて頭をコテンと軽く倒してみた。宗平の腕に凭れて見上げる角度の俺を、宗平は勢いよく顔を向けて確認すると驚いたようにポカンと口を開ける。 その表情に不安になって体を起こし「ごめん。」と呟いた俺を、宗平はジュースを机の上に置いて間髪入れずに抱きしめてきた。 「もー…不意打ちはずりぃって…。かわいすぎでしょ…。」 驚いた表情はそういうことだったのかと安堵すると共に宗平が喜んでくれたらしいことが分かって嬉しくなる。 体を少し離した宗平がジッと見つめてきたので、その意図に気付いて薄く目を閉じる。 暫くして訪れたのは優しい唇の感触…───だが、伴ったのはピリリとした痛みだった。 「ッ…。」 思わず体を離し顔を歪めてしまった俺を心配そうに見た宗平は唇の傷に気付いて「腫れてる。」と言いながらそこに目を凝らした。俺は何か勘づかれてしまうことを恐れて、慌てて距離を取ろうとしたが…それより先に宗平に手を掴まれた。 「…なんか…隠そうとした?」 「え…や、別に…。」 先程までの温かな空気が凍てつくように冷たくなり、心底居心地の悪いものへと変わる。 「もしかしてこの傷、裕大に付けられたのか?」 「ちが…、自分で噛んじゃって…。」 オロオロとしながら目を見れずに答えた俺に宗平は「春人、自分が嘘吐くの下手なんだって自覚しろよ。」と言って唇の傷を軽く引っ掻く。その痛みに俺はビクッと肩を揺らした。 「裕大のこと、庇ってんの?」 「……は?」 眉を寄せ躊躇うように、だが責めるように聞いてきた宗平の言いたいことが分かって、瞬間、頭に血が上る。 「宗平のそういう顔が見たくないからに決まってんだろ!!」 舐めんな!と思って下に敷いていたクッションをバシリと床に叩き付けて立ち上がると来たばかりだと言うのに帰ろうとする。だがその歩みは扉に辿り着く前に抱き竦められることで止められて、宗平が一言「ごめん。」と呟いた。 「…。」 全て宗平が悪いという訳ではないのだから俺も謝るべきなんだろうが、そうした場合キスをされた事実についてはどう伝えれば良いのか分からなくて俺は黙ってしまい、切り替えたように笑った宗平が「その服似合ってるな。どこで買ったんだ?」と、話題を変えてきたことに話を合わせた。 結局その後も俺は部屋に残って宗平と話をして過ごしたのだけど……付き合ってたった1週間でこうして揺れ動く俺たちの関係に、きっとお互いに酷く不安を感じていた。

ともだちにシェアしよう!