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2/8(土)

バレンタインは…やはり宗平にチョコを渡すべきなんだろうか。 渡すべきなんだろうな…。 この間の部屋デートからなんだか空気が微妙になっているからここで挽回しなければいけないし…。 なんて考えながら「別に男なんで買う気はありませんよ〜。」と装いつつ近くを通り過ぎた駅近くのデパート内特設売り場の人の多さに、俺は衝撃を受けた。とてもこの中に割って入ってチョコを選ぶなんて出来ないし、クラスの誰かに見られでもしたら大惨事だと判断した俺はそのまま駅に向かい学校から5駅離れたスーパーの特設コーナーにやってきた。 さすがにただのスーパーだからデパートのような人混みはなく、むしろ閑散としたものだったのだけど、これはこれで商品を選ぶ俺の姿が嫌に目立つに違いなく、暫く店内をうろついた俺は結局常設のチョコ売り場に来ていた。 「もうこれで良い気もしてきた…。」 こんな所にまで来て何をしているんだという疲れから適当に手に取ったバレンタイン限定デザインのアソートを見つめる。宗平はこれを渡しただけでも心の底から喜んでくれそうな気もするけど、その反応を見たらきっと俺の心が痛くなる。 はぁぁー…と息を吐いていると「春人くんじゃん!」と横から溌剌とした声が聞こえてきた。 見るとそこには里沙ちゃん。 げぇぇっ!なんでっ!!とすごく失礼なことを心の中で叫んだのだが…あ、ここ里沙ちゃんの通っている大学の最寄り駅だ…。てことは里沙ちゃんこの近く住んでんのかな。ははははは。 若干白目で「久しぶりー…。」と言った俺に構わず元気な声で「こんなとこで何してんのー?」と聞いてきた里沙ちゃんは俺の手に持ったチョコを見つけ、見てはいけないものを見てしまったような反応をしてきた。 「えっと…そんなの用意しなくてもきっと春人くんにもチョコくれる子現れると思うよ…?」 あれ?これ、バレンタインにチョコ貰えないこと確定な俺が「お前何個貰ったー?」とかいうやり取りの中で「俺も実は1個貰ったんだ…。」みたいに演出するために買おうとしてるって思われてない?それか14日に自分で自分を慰めるために予め買いに来てると思われてるよね?思ってるよね? 「いやっ、別に、えーっとこれにはあまり深い意味はなくて…。ただチョコが無性に食べたくなっただけなんだけど…やっぱ別にいいかな!」 半笑いで勢いよく商品を棚に戻した俺を里沙ちゃんが引き攣った顔で見てる…。辛い。 「ね?春人くんこの後時間ある?近くにオススメのカフェがあるんだよね。もし時間あるなら行こうよ。」 だが暫くの沈黙の後里沙ちゃんがニコッと笑ってそう誘ってきた。 「え。いや、光汰の彼女と2人では光汰に悪いんじゃ…。」 「いーの!」 そう言った里沙ちゃんは俺の背後に回って背中を押してきた。 「…光汰も別の子と2人で会ったりしてるみたいだし…。」 最後にボソッと呟くように零した里沙ちゃんの言葉に「え?」となってしまったが、里沙ちゃんはそのまま俺を押して、自身の分の精算を終えると「こっち!」と言いながら俺を引っ張っていった。

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