122 / 216

2/15(土)

里沙ちゃんとカフェに行ったことからヒントを得た気になった俺は宗平をスイーツの有名なカフェデートに誘った。 幸い今年はバレンタインの翌日が休日であるのでこれがバレンタインの一環なのだと言っても語弊は無い。はず。 里沙ちゃんがしてくれたようにこっそりケーキを2個頼んでチョコレートで出来た方をおずおずと宗平の前に差し出す。 「一応…バレンタインチョコ…ってことで…。」 言いながら恥ずかしさが込み上げてきて合わせていたはずの目を逸らし床を見つめた。だが俺が言い終わっても宗平は何も言ってこなくて不安から視線を戻すと宗平は口元に手を当てて俯いていた。 「そ…宗平…?」 問いかけると宗平は少し赤くなった顔を上げ俺を見つめ返す。 「すげぇ嬉しい…。」 宗平のその言葉を聞いて俺も再び恥ずかしくなって俯き俺たちは向かい合った姿勢のままケーキにも飲み物にも手を付けずに2人で俯いていた。この光景は傍から見たら異様だったに違いない。 「正直…貰えると思ってなかったから…。」 暫くして顔を上げた宗平がはにかみながらそう言った。 確かに、俺は今日のことを悟られないよう昨日は普段と変わらない様子で過ごしていたし「男同志の俺たちにそんなイベントは必要無い。」といった態度を貫いていた。だが、先日の部屋デートのこともあり、昨日の俺の行動はもしかしたら宗平に不安を与えていたのかもしれない…。 「…でも、宗平は昨日他の子たちからたくさんチョコ貰ってたじゃん…。」 そう言いながら昨日、宗平の机の横に置かれた紙袋を思い出す。宗平は俺があげなくても女バスの先輩たちやクラスメイトからもたくさんチョコを貰っていて、きっとその中には本命チョコも混じっていただろう…。 「好きな人からの1個の方が圧倒的に嬉しいのは春人だって分かるっしょ?」 宗平は困ったような顔で言った後に俺と目を合わせて心底嬉しそうに目尻を下げて微笑む。 俺は結局チョコを準備することもしなければ学校に持ってくるという労力もかけず、こんな簡単な形でバレンタインを終わらせてしまった。それでも宗平が笑ってケーキを食べてくれるので、俺もそれを見て嬉しくなる。 「…幸せだなぁ。」 零れるように溢れてきた言葉を口にすると宗平は「俺も。」と返してまた微笑む。 あぁ、本当になんて幸せなんだろう。 暫くまた他愛のない話をして過ごしてから沈んでいく夕日を背にカフェを出る。 宗平の首元にはマフラー。俺の手元には手袋。手を繋ぎたい気もするけれど人目があるからそれはしない。 「今日はありがとな。春人。ほんとすげぇ嬉しかった。」 帰り道で宗平が改めて礼を言って、いつもの笑顔で微笑んだ。 俺はこの太陽みたいな宗平の笑顔が大好きで、それが俺に向けられているのだと思うと本当に幸せな気分になる。 「ところでバレンタインついでにキスとかしてくんねぇの?」 だが笑顔に惚れ惚れとしていた俺に宗平がそんなことを聞いてきたから、まだ日も沈んでいない中何を言い出すんだと思ってバシバシと背中を叩いた。 「いてっ。冗談だって。でもあんま真剣に拒否られると凹むなー。」 苦笑いしながら言われたその言葉にハッとして手を止めると、宗平はニヤッと笑って俺を見る。 「っ………、今度!」 言い捨てるようにそう返した俺に宗平は「じゃあ今度、春人からしてな?」と朗らかに笑う。 もどかしいし恥ずかしい…けど幸せな…この空気がずっと続いてほしいと願いながら俺は宗平の横を並んで歩いた。

ともだちにシェアしよう!