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3/14(土)
ホワイトデーである今日は宗平がデートに誘ってくれた。
まぁ行き先は1ヶ月記念の時に見損ねた映画がロングランをしているということで普通に映画館なのだが、それでも宗平が誘ってくれたというだけでただの映画は俺にとって特別なものになる。
それに…映画デートは会話にも困らないし映画を見ているだけで同じ時間を過ごせるから最近の俺にとっては結構助かる。
昨日、ホワイトデーのお返しを里沙ちゃんに渡しに行った時、窶 れたのでないかと心配されたし、宗平に嘘をつくのに無理が生じてきているのならこういったデートは気が楽だ。
「ロングランって言っても案外お客さん少ないんだな…。」
思ったよりも人の疎らな館内を見つめてそう言うと宗平は「まぁほんとに終わりの時期だしな。」と軽く答え、チケットに書かれた座席番号を見ながら席に着いた。
程なくして館内が暗くなり上映が開始される。
サスペンス系SFの本作は完全に宗平の趣味だけど、ロングランになるだけあってかなり作り込まれたストーリーが興味を引き、2時間弱という時間をあっという間に感じさせた。
「おもしろかったー。」
大満足で出てきてそう言いながら宗平を振り返ると…宗平は何故か呆然としていた。
「宗平…?」
「手…。」
「え?」
ボソボソと何かを言っているので不審に思いながら近付くと「見入ってて…手…繋ぐの忘れてた…。」と言われた…。
え?あ、映画でデートと言えば…そうか…。
全く頭に無かったが、宗平が俺と手を繋ぎたかったのだと考えて恥ずかしくなり顔を赤らめた。
そんな俺を宗平は少し悔しそうに見た後に「とりあえず夕飯食べ行こうぜ…。」と促した。
今日のデートは普段昼間に会う俺たちとしては珍しく夕方から。
映画も見たので時間としては夕飯を取るには結構いい頃合だ。まぁ夕飯と言っても俺たちはまだ高校生だから洒落たレストランなんて入らずに普通にファミレスなのだけど。
だが食事後、そのまま解散になるのかと思っていた俺の腕を宗平が引いた。
「え?どっか行くのか?」
何も聞いていなかったのでそう尋ねると宗平は「まぁ、ちょっと。」と濁して駅から少し離れた場所にある大きな広場へ俺を連れてきた。
「わっ…すげー…、こんな大規模なイルミネーションが地元でやってるなんて知らなかった…。」
「バレンタインとホワイトデー限定の企画なんだって…。」
なるほど。これを見せたくて宗平は今回は夜デートを提案してくれたのか。
限定企画というだけあって周りには男女ペアの姿が目立ち、男同士の俺たちはすごく浮いた存在に見えたが、それでも込み上げてくるものは抑えようがない。
「ありがと宗平。すげぇ嬉しい。」
チカチカと電飾の点滅に照らされる宗平の顔を覗き込んで言うと宗平は目尻を下げて俺に微笑みを返した。
──…それが、水族館で見た長岡の笑顔とダブって…俺は言葉を失った。
宗平といるのに…宗平が俺のために考えてくれたプランなのに…そんな所で長岡のことを思い出すなんて…俺はなんて酷い奴なのだろう。
「…春人?」
急に俯いた俺の指先に宗平が軽く触れたけれど、俺はそれを避けるように手を引っ込めて笑顔を作る。
「…なんでもない。」
別の男に抱かれ、秘密を重ねていく汚れた俺の手が…宗平に触れて良いのだろうかと、今更ながらに気が付いた。
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