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3/24(火)

終業式を終えて、明日から春休みが始まる。この教室で過ごすのも、今日が最後だ。 そして今日は付き合いだして2ヶ月目ということで、宗平と2人、1つの机を挟んで向かい合って座り、ただなんとなく人の居なくなった教室に残っていた。 明日は宗平の部活が休みということなので、また映画にでも行こうかという話になっている。平日の映画館はきっと空いているし、それはとても嬉しい。 だが…春休みの開始と共に長岡が家に居る時間が増えるということにより、俺にはこれから始まる春休みがとても憂鬱だ。 「春人?」 暫くボーッとしてしまっていたらしい俺の顔を宗平が背中を丸めて覗き込んだ。 「…どうかしたか?」 「え…?…ちょっと…考え事…。」 問いかけた宗平は俺の返答に対し不満そうだがそれ以上尋ねてくることはなくて、俺たちの間には沈黙が落ちる。 最近の宗平との空気は…なんとなく重い。 原因は当然俺だ。そんなことは分かりきっている。 俺はもう取り繕うことに大分無理が生じてきているようで、薄れていく布のように、宗平に縋り付きたい感情がジワジワと中から顔を覗かせていた。でもそれをしたら俺は確実に宗平を傷付けてしまう。 苦しい想いをするのは、俺だけで充分だ。 宗平はそんな俺に気付いている様子ではあるがあまり深くは聞いてこない。それがとても有難かった。 だが…この日は少し様子が違ったらしい。 突然に俺の手を宗平が握り、俺は思わず自身の手を引っ込めようと小さく動かしてしまった。長岡に抱かれたままの俺が、宗平に触れてはいけない気がして…。 そしてそんな俺の反応を見て宗平が酷く寂しそうにこちらを見た。 「なぁ…俺、なんかしちまったかな?」 「!?っ違う!それは、本当に…!」 まさか宗平が俺の態度の原因を自分だと考えるなんて予想外で俺は焦って机に前のめりになり宗平の顔を見上げる。 だが考えてみればこうして宗平に不信感を抱かせることが長岡の狙いだったのかもしれない。そうして俺が別れを告げなくとも宗平の方から俺をフるように。 「じゃあなんか他にあるだろ…?俺じゃ…春人の悩みを解決する手助けにはなれねぇ?」 目を合わせたまま宗平が悲しそうに笑って聞いてきて、ドクリ…と、心臓が大きく脈を打つ。 「なや、み、なんて…別に…。」 「春人、俺は別に付き合うことで楽しい時間だけを共有したい訳じゃねぇ。」 俺の手を握る宗平の手に力が篭もり、目は真剣に俺を見つめる。 「春人が悩んでたら一緒に解決する方法を考えてやりてぇし、弱ってる時は傍に居て支えてやりてぇ…。なぁ…、これって迷惑か…?」 宗平の言葉は宗平の不安を感じさせるかの如く弱々しいが、とても温かく心に響いて俺はそれに泣きそうになってしまう。だがここで泣いてしまったら全てがバレる。そう思って懸命に他のことを考えて意識を逸らし口を開いた。 「迷惑な訳ない。嬉しい…。」 泣くな。泣くな。泣くな。 笑顔は、きちんと作れているだろうか? 声は震えてはいないだろうか? 笑え。 宗平に不安なんか感じさせないために。 「でも悩みなんて本当に無いから…。心配してくれてありがとな…。宗平。」 泣くな。笑え。 宗平の笑顔を守るために。 笑え。 「……そうか。」 そう一言零して黙ってしまった宗平が、どんな表情をしていたのか、あんなに望んだはずの笑みがそこにあるのか…俺は確認することができなかった。 俺は…何を望んでいたんだっけ…?

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