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4/8(水)

新しいクラスで過ごし始めて3日目。 俺は順調に平和な日々を過ごせていて、宗平にも言った通り、長岡とも何も無いし、そもそも学校では基本的に関わってこなかった長岡の態度は同じクラスになった所で変わらなかったようで、俺たちは教室でも全く関わることは無い。 俺は瑛二と、瑛二の書道部での友達とグループになり、長岡は男子バスケ部の友人や元々のクラスが同じだった友人たちとグループを作っていて、どちらかと言うと大人しい俺たちと長岡たちのようにクラスの中心になって盛り上げていく存在は、クラス内では関わりが無い方が自然だった。 クラス内での長岡は高校生らしいというか、友人たちと騒いだりして盛り上がっていることもあるけど、俺にはそれがやはり演技に思えてしまう。 でも本当の長岡の姿を、俺も確信を持って言える訳では無い。 全てを諦観し嘲るような長岡と、こうして皆の輪の中で同じように笑う長岡…。 …一体、どちらが本当の長岡なのだろう……。 「なー、宮田?だよな?今日クラス親睦っつーことで皆でカラオケ行こって話してんだけど宮田も来ねぇ?」 今日までは短縮授業で昼で授業は終わる。 宗平も部活が無いため毎日一緒に登下校できており、今日も宗平と待ち合わせている昇降口に向かうべく支度をしていた俺に、偶然目の合ったクラスメイトが突然そう話し掛けてきた。 彼は長岡といるのを見かけたことがある人で、気の強そうなツリ目が少し苦手だったりする。 「えっ…あ、悪い。俺約束あって…。」 「いやいや、クラスの奴と一気に仲良くなるチャンスだよ?行った方が良いっしょ!」 たぶん悪気は無いのだけど、1度断ったにも関わらず彼は俺の腕をグイグイと引っ張る。 焦って助けを求めるようにキョロキョロと周りを見渡すが、瑛二の姿は既に教室には無かった。 手を払っても良いのだけど、それではきっと悪い印象を持たれる。 クラスメイトと仲良くなれるチャンスを逃すのは惜しいが、今は宗平と一緒に居たいし…と考えていると「ヤス。」と聞き慣れた声が目の前で俺の手を引く彼に掛かった。 「用事ある奴無理に引っ張ってくんのはダメだろ。宮田の中でのお前の印象悪くなんぞ。」 そう言いながら現れたのは…長岡。 長岡に諌められた「ヤス」と呼ばれた彼は元気よく「はっ!やべぇ、そうじゃん!悪い宮田!!」と俺に頭を下げる。 「悪ぃな宮田。ヤスも良かれと思って誘ってんだけどさ。まぁまたこんな感じで皆で遊び行くの計画するから今度暇だったら付き合ってくれ。」 長岡はそう言って朗らかに笑うとヤスくんを連れて後ろに控えた団体へと戻って行った。 なに…あれ…。誰だ…。 演技をしている長岡と会話したのは去年の夏休み明けの時以来だが、改めてきちんと話してみるとその違いに俺は衝撃を隠せない。 呆然としながら長岡を見ていると団体の中から女の子が1人出てきて長岡に笑いかけながら腕を絡めていた。 楽しそうに言葉を交わす長岡と女の子。 …どちらが…本当の長岡なのだろう……。 その姿をぼんやりと見ながらも、ハッと思い出したように時計を確認した俺は、宗平との待ち合わせ場所に足早に向かった。

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