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4/11(土) from宗平

どんなに意識を逸らそうとしても春人の顔を見る度に裕大のあの言葉が蘇る。 『隠し事ばっかで──…』 もう、そんな言葉は気にするな。 春人は、俺のことが好きだ。 隠し事をしていても、なんでも、春人が付き合っているのは俺で、春人が好きなのも俺だ。 「笠井!」 部活が終わり、新入部員が入ったことで清掃をする必要がなくなったため早々に部室に戻ろうとしていた所をコーチに呼び止められた。 「最近ずっと上の空じゃないか。1年生も入って先輩になったんだからもっとしっかりしてくれ。大会だって近いんだから!」 コーチの言葉に力無く「はい。」と答えるとコーチはバシリッと俺の腕を強く叩いた。 「そんなんじゃ長岡に置いてかれるぞ!」 その言葉に、すごく腹が立つ。 なんでここで裕大の話を出すかな…。 狙ったとしか思えないタイミングのそれに眉を寄せるがコーチは俺が奮起したとでも思ったのかその後も裕大の優れている点を並べ、最後にバシバシと俺の両肩を叩き立ち去って行った。 「はーっ…まじで情けねぇな…。」 いつまでもウジウジと考えてしまうのも、そんなことで部活に身が入らず注意されてしまうのも、何もかも。 浮かない顔のまま部室に戻り、先に着替えを終え出て行ったチームメイトの後を追うように俺も手早く着替えを終えて部室を出た所、「宗平。」と横から名前を呼ばれた。 そちらを見ると…、春人が角からひょこりと顔を覗かせていた。 「春人…!?何して…。」 急いでキョロキョロと周りを見渡し裕大が居ないことを確認する。 大会が近いので今週から毎週土曜も練習になったのだと伝えたのは昨日の夜。春人は残念そうな声をあげたが「それなら日曜はちゃんと休まないとな。」と気遣う言葉をくれた。 しかしそれは土日どちらも会えなくなってしまうということ。ただでさえクラスも変わったので会う回数の減った俺らは週末も会えなくなってしまっては完全に会う機会を失う。 だが部活終わりに会いたいとは…、裕大と春人が会ってしまうかもしれないと思って言えなかった。 そして俺はそんな嫉妬に塗れた自分を知られるのが恥ずかしくて、ただ口を噤んだ。 しかし春人は全て知っていたかのように隠れていたその角から完全に出てきて「待ってた。」と言って笑う。 ポス… と、春人の肩に額を埋める。 かわいい。愛しい。手離したくない。 あぁ、グルグルと巡り巡っていたものも、突き詰めてしまえばなんて単純なんだろう。 俺はただ、春人が好きだ。 隠し事ばかりで悲しい。それは事実。でもそれも結局は春人が好きだから。俺だけが好きなのではと春人の愛情を疑ってしまっていたから。 でも今、春人はこんなにも全身で俺を好きだと言ってくれる。 なんだか、今はそれで良い気がした。 「春人…好きだ…。」 遠くから清掃を終えたらしい1年生たちの声が聞こえてきて、それに焦ったように春人がワタワタとしだす。 俺はそんな春人の手を引いていつかと同じように影になった部室棟横へと連れて来るとそのかわいい唇に噛み付くようなキスをした。 今は、今だけでも、この柔らかな感触にただ幸せを感じていたかった。

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