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「…コート借りるまでもなかった訳だな…。」 ダムダムとボールを突きながら1歩も動けない俺を呆れたように見ながら長岡が呟く。 「うっさいな…。いいからこっから歩く方法を教えてくれよ!」 「あぁ?あんま生意気言ってるとここでキスすんぞ。」 「!?」 狂った手元により爪先に当たって転がっていこうとしたボールを慌てて手に取る。 反対側のコートではミニゲームが始まっていてこちら側のコートではダンスをしていた女の子たちが長岡スマイルにやられてコートを反面分も貸してくれた。 距離や掛け声により俺たちの声は周りには聞こえていないがこんな所でそんなことを堂々と言い出す長岡に俺はタジタジだ。 「っ…したらお前だって変な噂立てられるくせに…。」 ボールを持ったままムスリと呟くと長岡は涼し気な目で俺を見下ろす。 「俺は冗談で通せそうだけど、お前は笠井に知られたらやべぇんじゃねぇの?」 「そ、ういうのは…、もう無しだって話だろ…。」 長岡は周りから見えることもあってか顔には爽やかな笑みが張り付いたままで、言ってる内容とのギャップもあって俺としては違和感がすごい。 黙り込んだ俺に、はぁ、と息を吐くと長岡は「じゃあ面倒くせぇけどまじめに教えてやるよ。」と怠さを全面に押し出しながらも立ち位置を変えて教える姿勢を取る。 「見る限り力加減は問題無ぇみてぇだし…ちょっとバウンドさせながらボールくれ。あ、片手でな。」 そう言いながらちょいちょいと手招きしながら少しだけ離れて俺の前に立った長岡に意図が分からないながらもとりあえずボールを渡す。 すると長岡は何も言わずに同じようにバウンドさせてボールを返してきた。 「じゃあ次はボール出すと同時にこっち来て。」 「???」 やっぱりよく分からなかったがとりあえず言われた通りボールを出した後にテクテクと歩きだそうとした。しかし片手でボールを受け取った長岡が「遅ぇよ。」と言いながらグッと腕を引いて俺を引き寄せた。 「おぃっ…!」 「何意識してんだよ…。お前が出したボールに追いつかなきゃ意味ねぇだろ。ドリブルの練習なんだから。」 「っ…、んなの…はっきりそう言われなきゃ分かんねぇだろ…!」 「笠井の告白みたいに?」 また何を言い出すんだと思って慌てて離れながら睨み付けると長岡は緩く笑う。 「っていうか、これ練習法として正しいのかよ!」 ボールを出した後に長岡に自ら接近しに行くのが嫌でそう言うと長岡はあっさり「知らね。」と返してきて驚いてしまう。 「歩きながらドリブル出来ねぇやつなんて初めて見たし、逆にどうして出来ねぇのか教えてほしいわ。」 くっそ!こいつ!こいつ…!! 「んな睨むなよ。一応どうすりゃ出来るようになんのか俺も考えてんだから。」 「えっ……。」 なに…、言ってんだ。 自分だって初めて教えるのに、それでも俺がどうすれば出来るようになるか考えてくれてたってことか…? 「……。」 黙った俺に長岡がまたボールを返してくる。 今度はそれを何も言わずにバウンドさせながら長岡に渡し、少し体を逸らした長岡の元にボールに追い付くような速度で歩み寄る。そうしてまたそれを繰り返す。 片付けの開始を知らせるための笛の音は、それから暫くして聞こえてきた。

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