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5/15(金)

今日から俺は17歳になる。 昨日の俺と今日の俺とで何が違うかと聞かれても、当然ながら特に違いなんて無いけれど、今日は宗平が俺と一緒に帰ってくれるので、例年と変わり映えしなかったはずのこの日は一気に特別な意味合いを持ち出す。 部活終わりの宗平と待ち合わせた来賓用玄関からそのまま俺の帰り道方向へと歩き出す。 一緒に帰るのなんて…本当にいつぶりだろうか?そうだ。付き合いだして1ヶ月した時に帰ったあの日以来。あの時はまだまだ寒さが厳しくてマフラーと手袋を付けていた。 宗平のくれた手袋はシーズンが終わると同時に手入れをして引き出しにしまったけれど、来シーズンまで使えないのかと思うと寂しくて少しウルッと来てしまった。 早く来シーズンが来れば良い。そうしたら今度は冬の寒さに宗平と身を寄せ合って一緒に笑うのだ。 そんなことを考えながら隣にいる宗平を見上げると宗平も俺を見ていたようで微笑みかける。そして宗平は右手に持ったカバンから小さな包みを取り出した。 「春人。誕生日おめでと。」 突然のその行動に驚くと「ムードも何も無くてごめんな。」と宗平は申し訳無さそうに笑う。しかし俺としてはタイミングよりもプレゼントを貰えたこと自体が予想外でかなり驚いてしまう。 だって今日一緒に帰ることを決めたのも、俺の誕生日のことが初めて話題にあがったのも月曜日。平日は部活だからこのプレゼントを用意したのは今週ではないはず…。一体いつから俺の誕生日について考えていてくれたのだろう。きっとサプライズとしては大成功だ。 「ありがとうっ…。すげぇ…嬉しい…。」 宗平から差し出されたその包みを受け取って開けていいかと尋ねると宗平は少しはにかんで頷いた。 軽い…し、かなり小さな包みだ。アクセサリー系だろうか? そう思いながら開けた包みから手のひらへと落ちたそれが…街灯に照らされてキラリと光る。 「春人、穴開けてんのに普段なんも付けてねぇだろ?勿体ねぇなって思ってて。」 俺の手の上で光るそれは…フープピアス。 それを見たまま、俺は何も言えなくなる。 「…もしかして穴塞ごうとしてた?」 そう聞いてくるということは…きっとその可能性を考えたがそれでも俺を驚かせるために敢えて確認はせず、そうではないという可能性に賭けたということなのだろう。 自身の選択の正否を心配するように宗平が俺の顔を覗き込んで、そんな視線に気付いた俺は急いで笑顔を作る。 「いやっ…えっと…ちょっと驚いて。…付けてみて良いか?」 「…塞ごうとしてたんじゃねぇの?」 宗平が力を無くしたような目で見るから、俺は即座に頭を横に振る。 「違うって…。なぁ、これ、宗平の手で…付けてほしい。」 そう言って手のひらに乗ったピアスを差し出すと宗平はそれを静かに手に取って俺の耳に宛てがった。 「……。」 約1年振りに…何かが中を滑っていくような抵抗感に似た懐かしい感触が耳に走る。 血こそ出なかったが、穴は以前よりかなり小さくなってしまっていたようで宗平は「きついな。」と言いながら少し力を入れて押し進めていた。 「…こっちに引っ越してきた時に前付けてたピアス無くしちゃってさ。ほら。ピアスって小さいから…。」 付け終わった宗平に礼を言った後、付けてもらいながら考えた言い訳を口にする。演技っぽく聞こえていなければ良いが…。それを聞いて宗平は「そっか。」と言って薄く微笑んだ。 「大事にするな。ありがとう、宗平。」 過去を、語る気は無い。 だから俺は目の前にいる宗平だけを見て笑顔を見せた。

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