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5/16(土) 2 from宗平

春人と空に浮かぶ星たちを見ながらプラネタリウムで聞いた神話を思い出す。 嫉妬に狂った女神により熊の姿に変えられてしまったカリストという女性と、その熊を母と知らずに矢を射掛けようとしてしまった息子のアルカス。そして矢を放つ直前、息子も熊に変えられ、星座として2人で天に上げられたという話…。 同じことを考えていたのか、春人が口を開いた。 「おおぐま座とこぐま座の親子はなんで人間にしてもらわねぇで2人とも熊にされちゃったんかな。ちゃんと言葉を交わせば分かり合えそうなのに…。」 「さぁ…。神様の考えることは分かんねーけど…言葉なんて交わさねぇまま星になって、永遠に傷付け合わずにそこに在ることを幸せだと思ったのかもしんねーな。」 そう答えると春人はこちらを興味深そうに見るので、俺もゆっくりと首を回して春人と視線を絡める。 「でも俺は、永遠に思えるくらいの寿命を与えられても星座にはなりたくねぇなぁ…。星座になっちまったら春人に触れねぇし、こうやって誕生日も祝えねぇもんな。」 自分でもクサイ台詞だなぁ、なんて思うけど浮かんだ言葉をそのまま吐き出し、頬に触れると春人は恥ずかしそうに合わせていた視線を彷徨わせた。 「春人…。好きだよ。俺に、春人の誕生日を祝わせてくれてありがとう。」 体を寄せてチュッ…と軽く口付けを落とす。 すると春人は唇を引き結んだように伸ばして、眉を下げると、外だというのに自分からギュウッと力を込めて抱きついてきた。 「祝わせてくれてありがとうって…なんだよ、それぇ…。」 「嫌だった?」 「嫌じゃない…。好き。宗平…好きぃぃ。」 肩口にグリグリと顔を埋めてそう伝えてきたもんだから、俺は思わず笑ってしまう。 「ほんとかわいい。」 言ってからまたキスをする。 頬に添えた手は…少しばかりずらして昨日俺があげたピアスが付けられた耳へ。 「…ピアス、痛くなったりしてねぇ?」 「ん…。痛くても…付けてたいし。」 そう答えた春人に「それはダメだろ。」と言って苦笑いをすると春人は少し拗ねたような表情を見せる。 「…俺、たぶん春人の1人で頑張ろうとするような…そんな不器用だけど健気…なとこに惚れたのかもしんねぇ。」 春人の瞳の奥をじっと見ながら、思い出すようにそう伝える。 いつから好きだったのかは…本当に分からない。春人の見た目や雰囲気をそもそも好きだったのかもしれないが、だが、もしかしたら転校初日から何かを隠すように強ばる春人に、無意識に気付いて…その弱々しくも強く在ろうとする姿に惹かれていたのかもしれない。 そんな風であれば良いと、願う。 「でもさ、今は俺と付き合ってんだし…1人で抱え込めなそうな時は…俺にも頼ってな?」 言いながらまたピアスに触れる。 昨日もまた…何かを隠そうとした春人。 けれど無理に聞こうとするのでは良い結果を招かないというのは充分経験してきた。 それに、これは結局は過去のこと。それも俺と春人が出会うより前の。 春人の過去までも手に入れたいと願うのがさすがに望み過ぎだということは、自分でも気付いている…。 微笑む俺に春人は少し迷った表情を見せて、それでもまたしっかりと、俺の背に腕を回してピタリとくっ付いてきた。 「宗平…大好きだ…。」 そう零した春人が愛おしくて、俺も応えるように強くその身を抱いた。

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