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6/2(火) 3

俺の教室で宗平と暫く話をしたが、教室には他の生徒もいたし、話題と言えば来週から始まる文理別れてのクラスの話。 もっと話をしたかったが、時間が来てしまったので名残惜しくもその場を離れ、騎馬戦出場者の集合場所に向かった。 「…ニヤケ面。」 集合場所で俺を見た長岡はそう一言零してきたので俺は慌てて頬を抑えた。 騎馬戦は練習無しのぶっつけ本番。俺のグループは騎馬に長岡と瑛二ともう1人、そして上には俺。 合図の笛の音で組まれた騎馬の上に恐る恐る乗る。 「春人、すごい震えてるけど…大丈夫?」 「なんとか…。」 俺の右足を支える瑛二が声を掛けてくるが…物理的に人の上に立つってまじでめちゃくちゃ怖ぇ…。 なんとか体勢を整えて立つことが出来たが…え?こっから騎馬の人も立つの?こわっ。 再度聞こえてきた笛の音に合わせて騎馬が立ち上がると、俺はその揺れに萎縮して長岡の肩に置いていた手を強く握りしめてしまった。 「って…。」 「あ、わ、悪いっ…。」 痛みに呻いた長岡に咄嗟に謝ると「気にすんな。それより落ちねえようにしっかり掴んでてくれてた方が良い。」とか言われて……どう答えたら良いのか分からなかった俺はとりあえず小さく「分かった。」と答えておいた。 というか…やっぱり長岡が身長ある分すごく高い…。怖い……。 『では2年生クラス対抗騎馬戦!男子の部、用意…』 放送部の女の子の元気な声のアナウンスの後、パァンッと開始の空砲の音が響き渡る。 それと同時に各々の騎馬が動き出す。 「裕大ー。これどっから攻めるよ?」 俺の左足を支えるクラスメイトにそう問い掛けられた長岡が若干首を左に向ける。 「俺?とりあえずの指示は上にいる宮田が出すもんじゃねーの?」 「えぇ?俺?え?……え…じゃあとりあえず前進で…。」 他の騎馬がどんどんとハチマキの奪い合いを始める中、少し出遅れて動き出した俺たちの騎馬の動きは至って緩慢だ。 「お、あそこのすげー組み合ってるとこ行こーぜ!後ろから一網打尽!」 また左側から声が聞こえてきて、クィッと引くような力が左方向に全員の意識を向けさせる。誰も頷きも反論もしなかったが俺たちの騎馬はそちらに向けてゆっくり動き出す。 が、突然右方向から向かってきた1つに反応するように瑛二が「右!」と大きな声で言って、それにより騎馬の向きが変わった。上で振り回されるように「うわわっ。」と叫びながら屈んだ俺のハチマキのすぐ近くを手が通っていく。 「あちゃー、おっしーい。春人のなら余裕で取れると思ったのにー。」 現れたのは光汰が上に立つ騎馬。 「光汰…騎馬戦だったのか。」 「あれ?瑛二から何も聞いてないのー?失礼しちゃうぜ!」 光汰はフンスフンスと鼻息を荒くしながら「とりあえずハチマキ貰うからね春人ー!」と叫びながら突っ込んできた。 もうそっからすごい。いつの間にか他の騎馬までもワラワラと集まってきて本当に騎馬"戦"と言うだけあって場は戦場のよう。 身長のリーチがあってか、なかなか俺のハチマキにまでは届かないが、シャツを引っ張られたり結構無法地帯だ。 「とりあえず1回出んぞ!」と叫んだ長岡の指示でその場から退却しようとしたのだが、後ろを向いた俺たちは格好の餌食となったのか複数人が同時に俺のハチマキに手を伸ばしてきたようだ。だが、それに気付いた俺の左足を支えるクラスメイトが慌てて高さを上げようと左足をグンッと押し上げた。 それにより、崩れるバランス。 俺は掴んだ長岡の肩なんて意味が無いかのように右前方に転げ落ちるように倒れていく。 見えたのは地面と足と、長岡の体、顔、青空。 「春人!」 長岡の、らしくない焦った声が聞こえた。

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