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6/2(火) 6

仮装リレーは大いに盛り上がった。 男子生徒の女装も女子生徒の結構本気なコスプレもだが…多分放送部の女の子が『カオナシから湯婆婆へのバトンパス…しかしなかなか湯婆婆が受け取ってくれない!追い掛けるカオナシ!逃げる湯婆婆!シュール!これはシュール!!』とか実況してくれた所だと思う。しかも結局バトンは受け取られないまま湯婆婆担当の6割を2人で並んだまま走ったことで失格騒動を巻き起こしていたことが更に会場を盛り上げていた。なんとか失格を免れた2人は最後に肩を組んで手を振っていたのだが、それがまた笑いを誘った。 「あ、宗平お疲れ様。春人はまだ笑いが収まんないみたいだよ。」 リレーを終えた宗平が、端から見ていた俺たちに気付いていたのか着替えを終えると顔を出してくれた。 俺は抑えきれない笑いからカタカタと体を震わせたまま宗平に手を振る。そんな俺に宗平はカオナシのマネをしたように、「あ…あ…。」と言ってきて、俺はまたぶはっと吐き出すように笑い出す。 「もーやめて。お腹痛え…。」 腹を抱えて笑う俺を宗平は立ち上がって満足そうな目で見た。 「じゃー俺この後リレーあるからそっち行くな。」 「レース系立て続けなんて大変だね。頑張ってね。」 笑いにより応えられない俺に代わり瑛二が宗平に声を掛けてくれて、俺はその隣で手を振った。 「元気出たみたいで良かった。」 漸く俺が落ち着いてきたところで瑛二が俺の方を見ながら突然そんなことを言ってきた。 「春人、長岡くんのこと気にして落ち込んでたみたいだけど…やっぱり元気を出すには笑うのが1番だね。」 瑛二が目尻を下げて優しげに笑うので、俺は宗平があまり時間も無いのに顔を出してくれたのは、俺を元気付けるためだったのだろうかと思い至って顔を熱くさせる。 「変わらず大事にしてもらってるようで安心したよ。」 瑛二のその直接的な表現が恥ずかしくて口を引き結んだまま「ん。」と発して1度深く頷く。 そうか。宗平は俺を気にしてくれて…。 考えるほどに顔に熱が集まってきたため、飲み物を買ってこようとその場を離れた。 足早に自販に向かって飲み物を手に入れ瑛二の元に戻ろうとしたところで…長岡が1人で校庭の木の脇に立っているのを見つけた。 次の種目は体育祭最後の種目で長岡も出るはずだったクラス対抗リレー…。 「……。」 声をかけるべきか…でもかけて何を話す…? そんな問答を頭の中で繰り返していると長岡が振り向いて俺を見つけた。 「…何してんだ?」 「別に…何も…。」 「この後笠井出んのに見ててやんなくていーの?」 リレーに宗平が出ること…長岡も知っているのか…。まぁ当然か。部活中に他のチームメイトたちとの会話の中に体育祭の話題が上がってもおかしくはない。 「長岡…やっぱ出たかったか…?」 「しつけーな。今更言ったって仕方ねーだろ。」 長岡はイラついたように息を吐いて、それが耳に届いた俺は表情を更に暗いものにさせてしまう。 「……じゃあ、代わりにこれやる…。」 手に持っていた炭酸飲料の缶を差し出すと長岡は眉根を寄せて哀れむような目で俺を見た。 「お前って…頭良いのにバカな。」 どっかで聞いたことのあるセリフ…。 「じゃあもういい…。」 そう言いながら缶を持つ手を下げようとすると長岡が阻むようにその手を掴んだ。 「要らねえなんて言ってねえだろ。」 そして俺の手から缶を取り上げる長岡。 「長岡は…いつもハッキリ言ってくんねえから分かんねえんだってば…。」 「…ハッキリ言ったらお前困んだろ。」 「はぁ?別に困んねーよ。飲むなら飲むって一言言ってくれたらそれで済んだ話だろ。」 俺がそう言うと長岡は黙り込んで俺を冷ややかな目で一瞥し、すぐに視線を校庭に戻す。 なんだか俺を見下ろした時のその目がすごく頭に来て、俺はムスッとしたままその場を離れた。 「ただいま。」 「…ジュース買いに行ったんじゃなかったの?」 何も持たずに帰ってきた俺にそう問いかけてきた瑛二に俺は「しまった。」と思って口をポカンと開けたが…もういいや。 そしてリレー開始の空砲は、俺が瑛二の隣に腰を下ろすと同時に鳴り響いた。

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