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6/6(土)

宗平からどこで大会が開かれるのかは聞いてあったし、試合の時間も聞いてあった。 前回が特別だっただけで今回、応援に俺は行かないという話にはなっていたけど……長岡の怪我があるので俺は気になって試合を覗きに来てしまっていた。 宗平に見つかったら嫌がられるかなぁ…。 試合を俺が見たところで長岡のケガも良くならないし、試合に勝てる訳でもない。この場にマイマイが居たら「自分のせいでケガした裕大くんとチームの痛手具合を確認したいなんて真性のドM」とか言われるのだろう…。 変装用に帽子とマスクは持って来たが…とにかく宗平に見つからないようにしなければ。 そんなことを意識しながら人が少なく、かつ体育館内を覗ける場所を探していると体育館裏手側から誰かが会話している声が聞こえてきた。 人が居るってことは裏手からも見れるのかな?と思ってひょっこりと顔を覗かせた俺はそこに宗平と長岡の姿を見つけて急いで身を隠し壁に張り付いた。そしてこっそりと聞き耳を立てる。 「手首…どうなんだ?」 「普通にしてる分には痛くねーけど…トーナメントには間に合わねえかもな。」 宗平からの問い掛けに長岡が落ち着いた声で答えている。 チラッと覗き見た長岡の顔はまた宗平を嘲るような意地の悪いものかと思っていたが、そんなことはなく…長岡は、少し遠い目をしながら顰め面のまま笑っていた。 「決勝リーグには?…間に合うか?」 「…俺無しで予選会勝ち進む気かよ?」 確かめるように言った宗平に対し、長岡は今度は自信と驚きを伺わせる言葉を返す。 「勝つしかねーだろ。」 長岡に対して宗平は強い口調で言い切り、そんな宗平を長岡は面白そうに見た。 「へぇ…。気合い入ってんな。」 「悪いけどチームの為でも裕大の為でもねぇ。春人の為だ。ここで俺らのチームが負けたら…春人は自分を責めるし…そんなん、させたくねぇ。」 宗平のその言葉を聞いて俺は目を見開く。 宗平がここで長岡に怪我の様子を伺うのも、大会で勝ち上がろうとするのも、俺が気に病まないようにする為…? 『大事にしてもらってる』 体育祭の時に言われた瑛二の言葉を思い出して、カァァッと顔に熱が集まってきた俺は思わずその場にしゃがみこんで頬を手で包む。 「…相変わらずくっせー奴。」 「どうとでも。とりあえず裕大も早く手、治してくれ。決勝リーグで裕大がいないとかなりキツイのは…俺も分かってる。」 裏表を感じさせない宗平の真っ直ぐな言葉に長岡は舌打ちすると「言われなくてもしてるっつーの。」と苦々しげに言ってその場を去って行った。 そして宗平は俺が居るのとは反対の角を長岡が曲がったのを見届けた後に、はーっと息を吐くとその場にしゃがみこみ、暫くしてから長岡の後を追うように角の向こう側に消えて行った。 「………。」 2人は居なくなったのに1人、動けない俺は先程の宗平の言葉を思い出しては頬の熱を下げることが出来なくなる…。 それでも試合の様子を見るのだとマスクを口元に当てて帽子を目深に被ると体育館の正面入口に向かった。

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