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6/6(土) 2

「春人。試合見に来てたろ。どういうこと?」 げぇぇぇ!ばれてるー!! 待ち合わせた近くの公園で駆け寄った俺に微笑んだ宗平は開口一番、笑顔のままそう言った。 今日の試合は宗平の宣言通りうちの学校が勝利を収めた。もちろんコーチの人選や戦略、チームメイトの力あってのものではあるが、1度逆転され大きく差を開けられそうになった時、宗平の掛け声やモチベーションの高さがチームの雰囲気を引き上げていたように見えて、それがあってこその勝利だったと俺は思わずにはいられない。 「裕大のこと心配で来たってのは分かるけどさ…。」 「いや、あの…。最初は…ごめん。その…長岡どうすんのかなとか…長岡いなくて試合大丈夫かなとか…そんなんが気になって見に来たんだけど…。」 「けど?」 たどたどしく答える俺から視線を逸らすことなく宗平は次の言葉を催促する。 「その、宗平が…俺の為に勝つって言ってるの聞いちゃったから…そっから純粋に試合の結果が気になってたっていうか…なんていうか…。」 そう説明し終えて見上げると宗平は目を大きく見開いて顔を真っ赤にし「春人…アレ聞いてたのか?」と聞いてきた。 「えっ、あ、ごめん。聞いちゃまずかった…?」 そう不安気に尋ねると宗平は長岡と話し終えた時のようにしゃがみこむ。 「ダメだろー…。だってあん時の俺すげー自分勝手で押し付けがましかったじゃん。春人の為って…試合に私情持ち込むなよって話だろー…。」 宗平は心底恥ずかしそうに組んだ腕の中に顔を埋めたままそう言う。 そんな宗平の正面に同じようにしゃがんで膝の上で組んだ腕に顔を乗せると俺は顔を上げないままの宗平をじっと見つめる。 「…でも…俺は嬉しかったけど…。」 そう口にすると宗平はゆっくりと顔を上げ、これまたゆっくりと視線を動かして俺のと絡める。 「…キスしたい。」 そうボソリと言ってきた宗平に「ここじゃ…だめ。」と俺も小さく答える。 少し離れた所からは遊ぶ子供たちの元気な声。 それに耳を傾けていると宗平が立ち上がって自身の着ているジャージを少し引っ張って溜め息を吐いた。 「これじゃホテルも入れねーしな…。悪いんだけど、春人の部屋で良い?」 「え、ちょっと待って…するの!?」 「するだろ。この流れは。」 宗平は熱の篭もった目で俺を見つめて、しゃがんだままの俺の腕を引っ張って立たせる。 「コインランドリーも一緒に行くから。」 そう俺の耳元で言って微笑む宗平。 「ッッ!なんか…良い感じにときめいてたのが一気に生々しくなった!」 そうぶすくれて返すと宗平は声を上げて笑う。そしてポンッと俺の肩に手を乗せると俺と目を合わせてニコッと笑みを浮かべた。 「ベッドの中でもときめかせてやるって。」 「っ!ばか!ばか!知らねっ!」 肩に乗ったままの宗平の手を叩き落として大声で言うと宗平は更に笑う。 結局、宣言通り宗平はベッドの中で俺をデロデロに甘やかしては恥ずかしくなるような言葉の雨を降らせ…最終的に俺はもっともっとと宗平に強請ってしまった。 そんな様子をシーツの洗濯を待つコインランドリー内で宗平が思い出したように口にするから、俺はまた宗平から顔を背けた。そして宗平はそんな俺にまた笑った。

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