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6/2(火) 8
コンビニの敷地の端っこでポールに腰掛ける長岡の包帯を解くと、買ってきた湿布の封を開けて取り替え、再びグルグルと包帯を巻いていく。
繁華街の中にあるコンビニのため、ガヤガヤと周りの喧騒がうるさいが、無言の俺たちの間を取り持ってくれているようで、通り過ぎていく人たちの会話や、たまに聞こえてくる叫び声に似た大声に耳を傾けながら無心で包帯を巻く。
すると不意に長岡が俺の耳に付けられたピアスに触れてきた。
「どうした?これ。」
「…宗平が、誕生日プレゼントにって…。」
なんだか顔を直視できる雰囲気ではなくて、1度チラリと長岡を見た後に再び視線を包帯に落として答えると長岡は「ふぅん。」と相槌を打って、暫く無言でピアスを弄ってきた。
「笠井と上手くやってんだな。」
「…まぁ。」
「クラス対抗リレーも1位だったし、相変わらず自慢の彼氏なわけ。」
長岡に宗平のことを自慢したことなど無いが…、少し棘のある言い方に、それがリレーに参加出来なかったことに対する不満だと思って、俺はまた謝る。
「お前のせいじゃねえっつってんだろ。」
「でも…。今週末の大会だって…。」
「うぜぇなぁ。じゃあ『お前のせいでリレーも大会も出れねぇ。恨んでる。』って言えば良いのか?」
そう問い掛けてきた長岡に今度は俺が口を閉ざしてしまう。
「んなもんに意味なんか無ぇだろ。」
「……。」
言っては悪いが…、その言葉が長岡から出てきたことが俺としては心底意外だった。だって長岡は小学生の頃の怨みをずっと晴らそうとしていたのだから。
黙り込む俺の耳から手を外すと長岡は今度は俺の前髪を軽く梳いて分けさせると、ジッと目を見てきた。
「言ったろ。お前は、他人の分まで背負い込もうとしすぎなんだよ…。」
その目が、少し悲しそうで、俺はまた何も言えない。
「…………悪かったな。」
しかし突然に長岡の口から出てきた謝罪の言葉に俺は「へ?」と言いながらポカンと口を開けて長岡を見る。
「笠井と付き合い出した頃のこと、きちんと謝れてなかったろ。」
「え…、いや、でも…。えっ…。」
まさか…長岡から謝られる日が来るなんて思っても無かった俺は狼狽えながら動揺で震え出した手から包帯を放してしまう。そして離れた包帯を取ろうとワタワタする俺を眉を寄せて笑った後、長岡が立ち上がって解けかけの包帯が巻かれた手を俺の届かない高さまで引き上げた。
「ちょっ…、まだ…。」
「あと端留めるだけだろ?今のお前にやってもらうより自分でやった方が早ぇし。」
長岡はそう言って笑うとカラオケルームへの帰り道を歩き出し、俺は慌ててそれについて行く。
しかし頭の中は先程の長岡の言葉でいっぱい。
復讐を達成したいのだから俺を追い詰めたことも長岡の中では当然の流れのはず…。一体どういう心境の変化なのか…?
そんなことを考え始めてしまった俺はどうしても答えが出せなくて、体育祭での疲れがあったはずなのに、その晩はよく眠れなかった。
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