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7/26(日)

地元からそこそこ離れた場所で、高校の同級生に会うことはあまり無いだろうということで選んだビーチ。 日曜日の宿泊を選んだのは単純にその日が安くて空いていたからという理由だが、今日が連休最終日ということもあってビーチには多く人が居り、男2人だけで来ていてもあまり目立つことはなかった。 持参したシートを広げて腰掛ける俺の横にはムスリと顔を顰めた宗平。 「…なー、もう機嫌直せよ。仲直りしよ?」 俺が何度もこう言っているのに宗平は口元を緩めない。 発端は…昨日長岡に付けられた首の傷を宗平がキスマークと勘違いしたからだ。 まさか俺もそんな風に捉えられるとは思っていなかったので迂闊だったが、問い詰めるように肩を掴まれたことにイラッとしてしまい「何も無いって言ってんだろ!」と宗平の手を叩き落としてしまった。 宗平は怒った顔をしながら「またそうやって…。」と言ってそこで言葉を切った。 宗平は…俺がいつも隠し事をするのを、きっとずっと不満に思っていたんだ。でもそれには触れないでいてくれた。俺の為に。 それに対し俺は宗平の愛情を感じると共にとても申し訳無くなる。 押し込めてきただけで、長岡のこともピアスのことも俺は何一つ宗平に打ち明けられないままなので、宗平の中のわだかまりは消化されることなく沈殿していて、ふとした瞬間にこうして淀みとなって現れるようだ。 そして今日が俺たちにとって初めての泊まりデートということもあって、そんな日をこんな風に始めてしまったことが大分堪えているらしい宗平は普段のように上手く切り替えることが出来ずにいた。 だから俺たちはシートに座ったまま言葉を交わさずにただ海を眺めている。だがジリジリと背中を焼いていく陽射しの痛みに段々と耐えられなくなってきた俺は「泳いでくる。」と言い残してその場を離れた。 「…どうすりゃ良いってんだよ…。」 モヤモヤとしたままとりあえず海に入って多少泳ぐ。 やがて宗平のいるシートに戻るのも気が進まなくて波打ち際でいじいじと砂を弄っていると同い年くらいの男の人たちに声を掛けられた。 聞けばビーチバレーをしたいのだが人数が足りないので加わってほしいのだとか。 俺絶対足引っ張るけどなー、と思いながら視線をシートの方に泳がせると宗平がこちらに歩いて来るのが見えた。 「どうした?」 「あ、えっと…ビーチバレーやるのに人数1人だけ足んないから加われないかって…。宗平、やってみたら?」 宗平は相変わらず眉を寄せたままだったが、それを聞いて更に表情を暗いものにさせた。 「悪いんだけど俺らも2人で来てるから他当たってくんね?たぶんあの人とか1人で来てるから。」 宗平は少し離れた場所で1人で海を眺めるちょっと怪しそうなおじさんを指差しそう言うと俺を促してその場を離れた。 「…今の…ちょっと態度悪かったんじゃね…?」 そう前を歩く宗平に声を掛けると静かな目で見据えられる。 「なんでこの状況で春人置いてビーチバレーなんてしないといけねぇの?」 うっ…。俺が宗平の参加を促したことで火に油を注いだらしい…。いや、だが……。 「…俺が1人で泳ぎに行くって言った時は何も無かったくせに…。」 そう拗ねてみせると宗平は少し困った顔をして俺を見たが、結局ホテルに行くまで、泳いでみても、砂で遊んでみても、宗平は軽く笑ってくれたがいつものように気持ちのいい笑みを浮かべてくれることは無かった。

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