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7/27(月)

薄目を開けていくと枕をクッション代わりにして挟みヘッドボードに背を預ける宗平の姿が目に入った。 「おはよ。起きてたんだな。」 そう掠れた声を掛けると宗平は薄く微笑んで俺の額を撫でた。それに俺は少し体を動かして宗平の太腿の上に頭を乗せて下から宗平の顔を見上げる。 「…寝なかったのか?」 宗平の顔に手を伸ばし、頬を包んで下を向かせると昨日よりずっと寂しそうな顔をされる。 なんでだ?確かに昨日は普段以上に濃く宗平と繋がれたと思っていたのに…。距離が縮んだのではと思う俺に対し宗平は1歩下がったような態度を更に強めている。 宗平の頬に当てた手を動かして抓ったりしながら不満気にしていると宗平が漸くしっかりと俺の目を見てくれた。 「……なぁ、春人。」 「んー?」 声を掛けてもらえたことが嬉しくて笑顔でその瞳を見つめて上機嫌で答えると宗平は目を細めて口を開く。 「…『れいま』って、誰?」 「………え…?」 頭を…強く、強く殴られたような衝撃。呼吸が出来なくなる。音が消える。 なんで…宗平がその名前を…? ダラダラと汗を流し出す俺の体は快適な空調の中で毛布に包まれているはずなのにどんどんと熱を失っていく。 何か…何か言わなければ。 「昨日、最後に呼んでた。」 そう言われて言葉が更に喉に詰まる。 こんな時なのに俺は長岡がずっと自分の名前を呼ばせることに拘っていた理由がなんとなく分かった。そして、俺と宗平が上手くいっているのを知っていた理由も。 きっと俺は最初の頃から礼真(れいま)の名を呼んでいたのだ。だから俺の全てを望んだ長岡はあんなにもしつこく俺を抱いていた…。 自身の頬に当てられていた俺の手を宗平が掴み見下ろす。 「言えねぇ?」 「っ…。」 言えない、訳ではない。 ただ、言いたくない。 しかし答えられない俺に小さく笑うと宗平はベッドから降りて服を手にする。 「俺、先帰るな。」 「っ今日、この辺見て回ろうって…。」 焦って俺が言うと宗平は呆れたように俺を見て、俺はその表情に更に打ちのめされる。 「こんな状態で行けるわけねぇだろ。」 普段は温かくて優しい宗平の、酷く冷めた棘のある声。 そして身だしなみを整えた宗平はバッグを手にするとバタリと閉まる扉の音だけを残して部屋を出て行ってしまった。 俺は急いで追いかけようとしたのだけど、昨日の名残か絶望感からか、力の入らない体は床にへたりこんでしまった。 「っ…宗平ぃ…。」 涙を流しながら呼んでも、応えてくれる彼が戻ってくることはなかった。

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