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7/29(水) from宗平

ボーッと座りながら目の前の海をただ眺める。 そんな俺にクラスメイトが声を掛けてきた。 「あれ?宗平結構焼けてね?部活の外周?」 「あ?あー…3日前にも海来たから…。」 そう答えると驚いた顔をされる。 「そうなの!?言ってくれりゃ良かったのに。」 「いや、皆で来んのはまた違うだろ?」 体育祭の時に軽く提案しただけの「皆で海に行ってのビーチフラッグ」は春人との旅行に行く前に行く日だけが決められていた。 あの時点では「1週間に2回も海来るとか、自分どんだけ海好きなんだよ。」と軽く笑っていたのだが、春人を残して1人で歩いた時にも聞いた波の音が、今は心底気分を落ち込ませる。 気分転換になるのではと思って重い気持ちを抱えたまま来たのだが…その選択は大失敗だったようだ。 『れぇ…ま…。』 あの夜…舌を軽く出しキスを強請った後に出た、知らない名前。 頭の中が真っ白になって、知らぬ間にその細い首に爪を立てていた。 ハッとしてすぐに手を離したが、ここに居るべきは俺ではないのだと言われたような気がして、酷い焦燥感に駆られた。 あの日、あの部屋に春人を置き去りにしたのは自分ではあるけれど、可哀想だと思う気持ちが無い訳ではなくて…。だが、今も悲しんでいるだろう春人のことをすぐに抱きしめに行ってやりたいと思う一方で真実を知るのが怖くなる。 そうして連絡を取ろうとスマホを手に取っては放り投げるの繰り返し。 「海って誰と来たのー?」 だが落ち込む俺にあまり気付いていない様子の上原が明るく尋ねてきた。 「春人と。」 「春人?あー、ゲーセンの?宗平その人と仲良いね。」 「まーな。」 適当に返事をすると上原は「ん?海…と、宗平の友達…。」と呟いた後に「あぁ。」とわざとらしく手の平に反対の手で作った拳をポンッと置いて閃いた様なポーズを取った。 「思い出したわ。私、宗平の友達、水族館で見たんだ。」 「水族館?」 「そう。長岡くんと居たから覚えてたんだわー。」 裕大と? あぁ。俺にケンカを売ったあの日は水族館なんてかわいらしい場所に出掛けていたのか。 そう思いながら「へー。」と上原に言葉を返し……違和感に気が付いた。 そしてドクリと嫌な風に心臓が脈を打つ。 春人が俺に裕大と出掛けていたのだと話をしてきたのは上原のことについてヤキモチを妬いた後。そしてそのヤキモチを妬くきっかけを作ったゲーセンで上原に会ったあの日…。あの時点で既に上原は春人をどこかで見たことがあると言っていたのだ。 「……上原。それいつ見たか覚えてるか?」 「え?彼氏とのライン見れば分かるけど…ちょっと待ってね。」 そう言いながら上原はスイスイとスマホを操作する。 「あ、あったあった。えーっと…、2月24日だね。」 「………2月…24…。」 それは俺と春人が付き合いだして1ヶ月目の日。 俺はその日は祖母の家へと見舞いに行っていて、春人は夜にした電話で1日部屋で勉強をしていたと言っていたはずだ…。 ギリギリと、何かが内臓を縛り上げて締めつけいくかのような不快な痛みをじんわりと感じる。 秘密は、暴かれたくないから秘密なのだ。 そんな昔にも思ったことを今更思い出す。 しかしそんな新たなわだかまりを抱えて帰路に付いた俺を、家へと続く道の上で1人の少年が待っていた。 脇に抱えた松葉杖。 左足の膝から下の裾が……風にはためいている。 「はじめまして。山下(やまもと)(あきら)と申します。」

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