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8/1(土)

あの日から宗平と連絡が取れなくて、何もやる気が起きない。もう8月になるし、あの日から5日も経っているのに…。 宗平の家に直接行こうかとも思うのだけど…宗平の中でもう俺との事は終わったのだとしたら…改めて宗平の口からそんな言葉聞きたくなくて、俺は顔を見て話に行く勇気が出ない。 だがこのままで良い訳がないのは分かっている。分かっているのだけど……。 死んだようにベッドの上で伏していた俺は、突然乱暴に開かれた扉の音にびっくりして飛び起きた。扉の向こうから現れたのは長岡。その手には昼食の置かれたプレート。 「おい。飯。」 そう言えば昼食を食べるのを忘れていた…。 「ありがと…。」 のそのそと起き上がって長岡の前まで行きプレートを受け取ろうと手を伸ばしたが、何故か長岡がプレートから手を離さない。 「ちゃんと食べんだろうな?」 「…食べる。」 正直そんな気分ではないが、残したり、手をつけないまま捨てるのは作ってくれた人や食材に申し訳なくて極力しないようにしている。 「…けど、今はお腹空いてないから後で食べる。とりあえず持ってきてくれてありがと…。」 力なく答えた俺に長岡は溜め息を吐いて机まで歩いていくとプレートを置いて自分はドカリとベッドの上に腰掛けた。 「…お前最近笠井と上手くいってねぇの?」 「なんだよ…突然…。」 「昨日の部活でも笠井まだボロッボロだったから。」 宗平…そんな気にしてんならメールの返信くらいしてくれても良いのに…! 少しイラッとしてしまった俺を長岡が眉を寄せながら見る。 「泊まり行った翌日からだから…お前遂に名前呼んじまった?」 「っ……やっぱ知ってたのかよ。…礼真のこと。」 「初めて抱いた日にも名前呼んでたからな。だいたいおかしかったんだよ。明らかに男に抱かれることに慣れてる感じだったし。」 「べ…つに!慣れてねぇ!!」 言い返した俺を長岡は鼻で笑う。 「お前たまに舌出してキス強請ってきたりもしてたけど、あれも教えられたやつだろ?」 「っ!?長岡に強請るなんてする訳ねーだろ!」 全く身に覚えが無いから反論したのに長岡は「骨の髄まで染められてる訳な。」と言うと不快そうに眉根を寄せて息を吐いた。 「お前の体はずっと『礼真』のモンなんだな。」 反論したいのに実際問題、礼真の名前を呼んでしまったのは事実らしいので俺はいつものように言い返せなくて困ってしまう。 「で?『礼真』ってのは元カレか?」 問いかけてきた長岡に、俺と礼真の関係をどう言えば良いのか分からなくて正直に「分かんねぇ…。」と返すと「お前がセフレ居たとか意外。」と言われた。 「バカ!違ぇよ!礼真は…。」 「礼真は?」 「礼真は………。」 宗平にだって…転校してから誰にだって話してこなかったこの話を、1番最初にするのが長岡で良いのだろうか…。 でもきっとこの状況下では長岡は話し切るまで解放してくれない。 そう思って、俺はポツポツと自分の過去についての話を始めた。

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