195 / 216

8/1(土) 2

俺が掻い摘んで自分の過去を話し終えると、長岡は息を吐いて床に視線をやって暫く黙った後、また息を吐いて今度は俺を見た。 「ピアスは?」 「え?」 「穴開いてんのに何も付けてなかったのも、何か意味あったんじゃねぇの?」 う…。鋭い。 さすが長岡と言うべきか何と言うべきか…。 「礼真に…穴開けられて礼真と同じやつ付けてた…。」 「『自分の』てか?それ本当に付き合ってねぇ訳?」 長岡はバカにしたように笑いながらまた質問を投げる。 「たぶん本当に付き合っては…ない。晶にあんなことした礼真と…そういうことすんのが嫌で、1度だけ『付き合ってもない人としたくない。』って言ったら『じゃあ俺たちは付き合ってる。これで良いだろ?』って言われて…。」 この時も少し言い合いをしたのだが…、結局俺は礼真に従うしか無かった。振り絞ったはずの勇気を、礼真はいとも簡単にへし折った。 「でも宗平とちゃんと付き合いだしてからやっぱり礼真との関係は『付き合ってた』ってのとは違うって思ったし…。それに俺、礼真から『好き』とか『付き合ってほしい』とか、言われたこと…無ぇ…。」 俺がそう答えると長岡は何かに納得がいったような顔をした。 「…だからお前はハッキリ言葉で伝えてきた笠井に惹かれた訳か。」 「……人のこと『好きって言われたら好きになるタイプ』みたいに言うなよ。」 言い返した俺に長岡は「あながち間違ってもねぇと思うけど?」と言いながら笑う。 「…礼真は…俺に愛情とかそんなの無くて、きっと俺のことを自分の一部みたいに思ってたんだよ。だから…礼真と似たようなこと言われたりされたりすると…警戒する。」 そう、少し含みを持たせて言うと長岡はすぐに礼真と自分が重ねられていたことに気付いたらしく、面白くなさそうに「なるほど?」と呟いた。 「で?ピアスはどうしたんだよ。」 更に聞いてきた長岡に対し「転校する時に捨ててきた。」と答えると長岡は少し顔を上げた。 「へぇ。春人にしてはやるじゃん。そんな嫌いだったんだ?」 「嫌いとか、憎いとか…そういうのじゃもう測れねぇよ…。人の片足まで奪うような奴だぞ…。」 俺の返しに長岡は「確かにな。」と呟くように言う。 「でも、大好きだったのも本当だし…嫌いには…一生かけてもなれない…と、思う。」 「……甘い奴。」 「…。」 晶の為にも、礼真のことは嫌うべきなのだと思うが…許せない気持ちがあるのに礼真のことをどうにかしてやりたいという気にはならない…。 何も出来なくて、中途半端だ。 「そんで忘れらんなくて今でも名前呼んじまうのか。」 「忘れられないとか…そもそも知らなかったんだよ!礼真の名前呼んじまうとか!」 「まぁ誰の名前も呼ばねぇで意識飛ばすことのが多かったけどな。」 冷静に返されたその言葉に驚いた俺が「そうなのか?」と問うとニヤリと笑った長岡がこちらを見た。 「今日はどうなるか試してみるか?」 「……。」 前のめりで答えを求めた期待感が波のように引いて消え失せていく。 「…お前の言うこと信じそうになった俺がバカだった。」 「ひでぇな。俺お前に嘘吐いたことねぇのに。」 長岡はいつものように適当なことを言うと「飯ちゃんと食えよ。食わなかったらまじで気失うまで抱き潰すからな。」と言って部屋を出て行った。 その後昼食を残さず食べきったのは言うまでも無い。

ともだちにシェアしよう!