196 / 207

8/4(火)

「ちょっと何死んだ魚が更に1週間放置されて海鳥にも見向きされなくなったみたいな顔してんの?キモッ。」 「……何の用ですか。」 突然部屋を訪ねてきたマイマイは今日もベッドの上で項垂れる俺を見つけてそんな暴言を吐き付けると、態度の悪い俺の事なんて気にすることなくベッドの脇に腰掛けた。 「ちょっと裕大くんのことで話があったんだけど…、まぁ良いわ。はいはい今度は何があったの!」 呆れたような態度でもきちんと話を聞こうとしてくれるマイマイの優しさが沁みる…。 「…宗平と一緒に居る時に他の人の名前呼んじゃって…それで宗平が怒ってメールしても電話しても無視されてるんです…。」 そう言うとマイマイは少し冷めた表情で「…つまりHしてる時に呼んじゃった訳ね。」と言ってきた。 「っな、なんで…。」 「じゃなきゃそこまで怒らないでしょ。普通。でもそんなの今更じゃない。アンタと裕大くんが関係あったのなんて宗平くんだって知ってたんでしょ?」 そう言ったマイマイに何も言えなくなる。 気まずく目線を逸らし黙りこんだ俺を見てマイマイは少し目を見開いた。 「……え?裕大くんの名前じゃないの?」 「いや、あの…中学時代の…。」 歯切れ悪く答えるとマイマイは更に驚く。 まぁそうだろう…。高2にして男ばかり経験人数3人て…。かなりやばい。 「うーん。とりあえず会いに行って謝んなさいよ。アンタいつからケンカしてんの?」 「先週の…月曜から…。」 「はぁ!?もう1週間も経ってんじゃない!何してんのよ!グズ!!」 グズって…。この早く踏み出したいけど踏み出せない告白する時みたいな意気込み感を分かってもらえないだろうか。 ……なんて、全部言い訳なのは分かっているんだが…。 「今すぐ宗平くんに会いに行きなさい。」 「え、い、今から!?」 「善は急がなきゃ善のままでいてくんないのよ!予定も無いなら今すぐ行きなさい!」 「でも…家に居るかも分かんないし…。」 「何時間でも待つくらいの根性見せなさいよ!!」 そう言いながらマイマイは扉を開けると部屋の主であるはずの俺を廊下に追い出す。 「マイマイ…。」 情けなく振り返った俺にマイマイは「話するまで帰ってくんじゃないわよ。」と言って無情に扉を閉めた。 あの…財布も携帯も部屋の中なんですが…。 気まずくなりながら自分の部屋なのに「失礼します。」と小声で言いながら入ってマイマイの刺すような視線を浴びつつすぐに財布と携帯を手に取って部屋を出る。 ……行きたくないな。 出た廊下の先でまた立ち止まる。 宗平は絶対に怒っているし、宗平と向き合うには俺の過去を全て打ち明けなければならない。 宗平は俺の話を聞いた後も俺のことを好きでいてくれるのか…自信が無い。 長岡のみならず、中学時代から付き合ってもない相手に数えきれないほど体を開いていたなんて…。 当時は体だけで物事を丸く収められるのなら、と思っていたがこうして大切な相手が出来てから考えると自分はなんて事をしていたのだろうかと気付く。 「宗平…。」 会いたいが、会いたくない。 俺たちの関係がはっきりと終わってしまうかもしれないことがとてつもなく怖い。 「……。」 しかしなんとなく携帯を確認した俺はそこにあった着信履歴と未読のメールに気付いて急いで外に駆け出す。 するとメールの内容通り、そこには宗平が立っていた。

ともだちにシェアしよう!