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春人 5 ※

「ははっ。吐いちゃった。春人ほんとに初めてだったんだな。うれしー。」 他人が吐いているという状況に凡そ相応しくないそんなセリフを、酷く満足そうに礼真が言う。 洗って、塗って、解して、どれだけの時間をかけたか分からないが、気の遠くなる程の時間と苦痛に耐えた春人を最後に襲ったのは、男である自身が男に抱かれているという絶望感と、感じた事の無い圧迫感と痛み。 「も…やめてっ。苦しッ…。」 自分の胃からせり上がって来たものの鼻をつく匂いが更にこの行為に対する嫌悪感を際立たせた。 礼真は近くに置いたティッシュで気持ち程度にそれを拭くが、繋がりかけたそこを離すことはしなかった。 「まだ挿れたばっかだろー?わがまま言わねーの。」 「ぅぐっ…。」 ズッ…と、汚れた部分から離すように礼真が春人の足を抱え、広いベッドの中を少し横に移動する。そして苦しみ、悶えていた春人を無視するように全てを春人の中に沈めてきた。 「ぁ"っ…うぅ"ぅ"ぅ"ッ…。」 獣のような唸りが眉を寄せた春人の喉から溢れる。 「きっつ…。」と言いながら顔を顰めていた礼真は、春人の苦悶に満ちた表情に気付いて頬を緩ませ、その汗ばんだ額に触れた。 「童貞卒業もまだなのに先に処女喪失しちゃったな。」 「言う…なぁ…。」 「なんで?かわいいじゃん。このまま俺しか知らないままでいような?」 チュッと唇に軽く音を立てて触れた後、内臓を押し上げるような苦しさからまた吐き出した春人を気にすること無く、礼真は春人を貫いた。 そしてこの日からこの行為は、度々繰り返されるようになる。 やがて春人が吐くことは無くなって、後ろだけで感じるようにもなっていった。 礼真は望んだ通り、春人の特別で無二の存在になったが、やがて礼真は行為の最中に自身の名を呼ぶことを求めるようになっていく。 春人が意識を飛ばしても、暗示のように、深い深い所まで自身を刻み付ける。 この行為と自分の存在が常に1つであるように。無意識の中でも春人が求めるのが常に自分であるように。春人の全てが、自分のものであることを確認するために…。 しかし高校に入学した直後、春人の両親が会社を追われることになると同時に礼真は海外の大学へ編入することになった。 漸く、春人は礼真から逃れることが出来た。 しかし長い時間を掛けて無意識下にまで植え付けられた行動が消えるには、更に時間を要することを、春人は知らなかった。 そうして春人はそのまま『はじまり』の日を迎えるのだった。

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