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春人 3

「俺の…せいだったんだな…。」 訪れた晶の病室で絞り出したその声は、今にも泣きそうなものだったと、春人自身思った。突き付けられた真実があまりにも(むご)く、春人を苛んだから。 『偶然、春人の話してた先輩に会ってな。それで"少し"…彼の背中を押してやった。』 礼真はそう言っていたが、同時に話をされた先輩の病院への資金援助の話と晶の足を失わせるに至った話を結び付けられないほど、春人もバカではなかった。 つまりは晶の片足を失わせる汚れ役を先輩にさせる代わりに病院に金を支払ったということ。 事が明るみに出た時は資金援助との関連性を証明するものは何も無いし、礼真が残しているはずも無い。事実、資金援助には別経営の会社を挟んでいるとも話していた。 あの先輩1人には晶の足を失わせる覚悟など無い。半ば脅されるようにして利用されたに過ぎないのだろう。 何故そんな凶行に及んだのか理解できなくて春人は礼真の両肩を掴み責めるように詰め寄った。しかし逆にその腕を取り微笑んだ礼真から伝えられたのはただの一言。 『春人の傍に居んのは俺だけで充分だろ?』 ………それだけの為に…? 晶に、自分と関わることを止めるよう促すためだけにこの男はここまでするのか…。 その事実に、春人は震えた。 そしてやっとのことで訪れた晶の病室で泣くのを懸命に堪えながら先の言葉を放ってはみたが、やはり春人は我慢が出来なくて、謝罪の言葉を述べる頃には嗚咽する回数の方が言葉を放つ回数を上回っていた。 「待って春人。落ち着いてよ。何言ってるの?」 晶は焦りながら春人の手を取って落ち着けようと声をかける。 春人は晶が何故嘘を吐いて誤魔化していたのか分からなかったが、春人の横に音もなく並んだ礼真を見た時の晶の表情で、礼真の言った事の方が真実だったのだと確信した。 「………ごめん春人。この人と2人にさせてもらっても良い?」 そして心ここに在らずといったような表情でボソリと言った晶を不審に思いながらも頷いて病室から出た春人は、自身を落ち着けようと一旦トイレに行き顔を洗ってみたが、そんなことで完全に落ち着けるはずも無く、暫くして礼真と入れ違いになる形で戻った病室でまた泣いた。 「ごめんね春人。春人に余計な心配かけたくなくて黙ってたんだけど…、あの人はそれもダメだって言うみたい。」 眉を寄せながら微笑んだ晶は、泣きじゃくる春人にそう声をかける。 「っごめん。本当に、俺のせいで…っ。」 春人はもう謝ることしか出来なかった。 けど謝ったところで何も変わらないことは痛いくらいに分かっていて、無力な自分へのやるせなさにただ涙が溢れる。 そんな春人の背を晶が宥めるように撫でた。 「落ち着いて春人。これは春人のせいじゃない。全部、礼真のせいだ。あの人にはいつか必ず罰が下るから。俺が下すから。」 優しい声と共に現れた言葉は不穏で、春人はそのちぐはぐさにゆっくりと顔を上げて晶を見る。 「でもきっと、僕たちはもう2度と会わない方が良い。」 そう言って悲しそうに、悔しそうに、顔を歪めて微笑んだ晶。 「だから、さよならしよう。」 この日から、春人と晶は会っていない。

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