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6/29(月) 2 from宗平

人影の無い階段下。 授業開始の鐘は先程鳴った。 トッ…と、春人の顔の横にある壁に手を軽く置いて首を傾げながら覗き込むと春人は焦ったように視線をあちこちに動かしては時々俺を見る。 「随分仲良さそうじゃね?」 正直、昨日から虫の居所が悪くて仕方が無い。 上原とのことに対しての反発心から裕大と出掛けてしまうのは予想外だった。 昨日わざわざ伝えてきたのからするにやましいことは……無かったと信じたいが、それでも自分から誘うだなんて…。 「なぁ。春人は俺が少し他の人と仲良くしたらすぐ浮気しちまうの?」 頬に手を添えて上向かせ視線を合わせると春人は困った表情をする。 俺は、春人が間違いなく俺だけを好きでいてくれてると信じている。けど、愛情も本当だけど隠し事が未だにあるのも本当。そしてそれには裕大が関わっている。 だから…裕大にだけは近付けたくない。春人には、俺だけを見ていてほしい。 じゃないとこの自信が失われそうで、怖い。 「だから浮気じゃなくて…!…っごめん。相談もしないで出掛けたのは…ほんと謝るし、昨日怒らせたのも、あんなことするつもりじゃなくて本当にただ宗平に会いたかっただけなんだ…。」 『しょんぼり』という効果音がよく似合いそうな雰囲気で春人は肩を落としながら素直に謝る。 「そもそも昨日は長岡ともう1人と3人で出掛けてたんだよ…。その人に長岡のこと紹介してほしいって頼まれてて…。」 「春人に?なんで?」 「俺が長岡と同じ家住んでるから…。」 「…春人と裕大が一緒に住んでること知ってる人ってそんな居たっけ?誰?」 そう尋ねると春人は答えを探すように視線を彷徨わせる。それに…少しの苛立ち。 「えと…ごめん。結局上手くいかなかったっぽいから…そこは伏せさせてほしい。」 …昨日の裏付けは取れない…か。 春人もそれには気付いているようで更に困った顔をしながら「ごめん。」と言葉を重ねた。 嘘なのか、本当なのか。 また真実が分からないことが増える。 「春人、俺のこと好き?」 そう尋ねると春人は今度は即座に頷いた。 「ちゃんと言葉で聞きたいんだけど。」 衝動に忠実にそう要求すると、春人は少し顔を赤らめてパクパクと何度か口を動かした後に「宗平が、好き…です。」とボソボソと呟いた。 なんで敬語なんだと少し和むと同時に、苛立っていた感情が少しばかり落ち着いてくる。 「……。」 信じる?いや、信じるしかない。 今までも、これからも、ずっとそう。 俺は、俺に何かを隠す春人からの愛情を信じる。 「なぁ…宗平。やっぱ人来たらまずいし…少し離れ…。」 しかし俺が少し落ち着いたと感じ取ったのか、春人が即座にそんなことを言ってくるからその唇を自分ので塞ぐ。「んーっ!」なんて重なった口の中で抗議の声を漏らされたけど無視して舌を捩じ込んだ。 「ぁ…。宗平、ダメって…。はっ…。」 絡ませる舌に多少応えては時折抵抗を見せる春人。 こんな時くらい、素直になってくれたって良いのに。 俺が好きなんだって、俺だけだって、思わせてほしい。 どうしたらなれるのか、この想いの根底にあるものは何なのか…、分からないから唇を離したら軽く微笑んで笑みの中に全てを押し込める。 「今日は春人に上んなってほしいな。」 そう言うと一瞬何のことか分からなかった風に俺を見た春人は次の瞬間には言葉の意味に気付いたようで「は!?何、突然!!」と少し大きな声で言い返してきた。 「俺のために頑張って動いてんのが見たい。」 「っ……!つーか!部活あんだろ!」 「残念。今日からテスト準備期間で部活無ぇんだ。」 笑いながら答えた俺に春人は言葉を無くす。 「だから今日から毎日出来るな。」 最後にそう付け足すと今度は「勉強しろよー…。」と若干泣きそうな顔で返してきた。 ははっ、かわいい。 体を重ねれば、いつも少し満たされるのだ。 この名前の分からない感情が。

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