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5/23(土) 2

「そそそそそそ宗平…なんでここに…。」 「それはこっちのセリフじゃね?昨日の電話で来ないってことで決まったと思ってたのって俺だけ?」 「ええええとえと…。」 矢継ぎ早に繰り出された問いの答えに詰まる俺の腕を、宗平が掴んでどこかに誘導するように歩き出す。 連行される犯人のように足取り重くついて行くと宗平は会場前の喧騒から離れた敷地の外れの細い道へと俺を連れてきた。 「ここ行ったら裏門出れるらしいから。したら裕大にも見つかんねーだろ?」 俺に帰るよう促しながら行き先を示す宗平。 「…宗平は、心配のし過ぎだと、思う。」 昨日も電話でしたけれど、それでもやっぱり納得いかない俺は食い下がって宗平を見る。 『少しは信頼してほしい』と口をついて出そうになったが……いや、待て。実際沢山隠し事をして不安にさせてんのは俺な訳だからこの話題は避けた方が良いだろう。 えーっと…。 「……ほ、んとうは…俺だって…、宗平のかっこいい姿、直接見たい。のに…。」 「………。」 あ、やばい。 宗平何も返してくれない。 これは完全にスベッたぞ…。 そう思いながら見上げると眉を寄せ怒ったような宗平と目が合った。けどすぐにその表情が前に中庭で「宗平と居れるならどこでも特別だ」と伝えた時の表情と一緒だと気付く。 つまりこれは怒っているんじゃなくて、照れている。 「…俺にもかっこいい宗平見せてほしいなー。」 ちょっとズルい気もしたけどそう上目遣いで畳み掛けると宗平は今度はムッとしながら俺を見た。 「そんなんで流されると思ってんの。」 「え?ダメ?」 いけると思ったのに、俺の予想に反する言葉を返してきた宗平は「全然ダメ。」と言いながら顔を寄せてきた。 「え?ちょっ…、宗平…っ!?」 突然の距離に今度は俺が焦る番。 待ってくれ。これは誰かが来たら角度によってはキスしているように見えてしまうかもしれない距離だ。 「…煽るのにキスはダメなんだ?」 焦って宗平の胸に当てていた手を、宗平の掌に包まれてしまう。 「っだって、煽った訳じゃないし…!」 本当は違う方を煽るつもりだったのだ。 目も合わせられないまま人が来ないかばかりを警戒していると宗平がスッと離れていく。 それに少しばかり寂しいなんて思ってしまったのは、今は言わない。 「……じゃあ観てって良いけど、………明日したい。」 「は?したいって………、え!?」 最初意味が分からなかったが宗平が何を言わんとしているのか気付いて驚いて見ると宗平は少し気まずそうな表情をしていた。 「…だって結局3ヶ月目の時から出来てねーし…。それに明日は4ヶ月目じゃん。」 「またしよう」なんて言ったくせに出来ていなかったことを、どうやら宗平は気にしていたらしい。宗平が土日も部活の日が増えたと言うから俺なりの気遣いだったのだけど、この間の誕生日プレゼントのこともあってか宗平の中では不安に思うことが増えていたのかもしれない。 「あ、え…。」 けど「明日しよう」なんて、そんな言葉堂々と交わしたことなど無くてどう言うのが正解か分からなくなってしまう。 それでも頷こうとした所でまた宗平が口を開いた。 「じゃあ今日裕大より点取れたら、ご褒美に明日して。」 「ご褒美…それで良いのか…?」 試合を見れる、宗平と出来る。俺にとっては嬉しいことしかないのだが…。 「あぁ。…頑張れる。」 そう言ってから宗平は俺の耳に付けられたピアスに触れながら微笑む。 俺の心臓はこの時からやたらドキドキと鳴りっぱなしで、その後の試合で宗平が本当に長岡より多く点を入れたのを見てからは痛みすらあるような気がしてくるほどだった。

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