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6/18(木)

文理別れての授業が始まってから早1週間以上…。 初日は長岡が突然首に触れてきてそれを宗平が助けてくれたりしたのだが…最近問題なのは長岡より宗平だったりする。 「なー。宗平いつまでノートのコピー要るの?しかも全教科毎時間!手間賃請求するぞ!」 授業合間の休み時間に2人で自販に飲み物を買いに来た所でそう不満を零す。 2日目からノートのコピーを頼まれて渡すようになったのだが、味を占めたのかそんなことがもう10日近く続いている。 別に授業中寝ている訳でもないし、ノートも取っている様子なのに…。 不審に思って以前にも尋ねたのだが「成績良い人のノートの取り方見るってそれだけでも勉強になるから。」と、はぐらかされてしまった。 「手間賃って…。昼休み数学準備室までコピー機借りに行ってんの俺だけど。」 「そういうことじゃなくて!そ……他人が見ると思うと字とかまとめ方とか結構気ぃ遣うから普段よりエネルギー要るし…。」 学校内だし、周りに人も居るから『宗平が見る』と言わずに『他人が見る』と言い換えたのだが、宗平はそんなことにはさっぱり気付かなかったようで「あー。そこは考えてなかったわ。確かにそれは申し訳ねぇな。」と顎に手をやり考えるような仕草をする。 「まぁいっそのことノートぐっちゃぐちゃでも良いけどな。」 そしてハッと意地悪く笑った後にそんなことを言ってきたから俺は余計に訳が分からなくなる。ノートのまとめ方も勉強になるんじゃなかったのか…? するとそんな俺たちに数学の先生が声を掛けてきた。 「長岡の手首の調子はどうだ?」 え…。なんで突然そんなこと俺たちに聞いて来るんだ? 分からなくて宗平を見上げると宗平は焦った表情をしながらキッと先生を睨んでいた。 「ノートこまめに渡してやりたいってのも分かるが毎日準備室通うのは大変だろ?1週間分とかにまとめて渡す方法にしてもらうよう交渉した方が良いと思うぞ。」 先生は心配そうな顔をした後に「まぁ友達思いなのは素晴らしいけどな!」と言ってワハハハッと豪快に笑いながら去って行った。 そして残された俺は同じく残されたまま一言も発しない横に立つ宗平の顔をまた見上げた。が、その顔はすぐに下に移動した。宗平が勢いよくしゃがんだから。 「もー…。何なんだよ。あの先生…。」 宗平はガックリと肩を落としながら膝の間にある顔を地面に向けたまま上げようとしない。 これはきっと…毎日渡してあげてるっていうのからすると宗平から長岡に提案したんだろうな。長岡に頼まれたとして宗平が律儀に従う訳ないし。そして俺が気に病まないように俺には秘密にしていた…ってところか…。 まぁこうしてバラされてしまうのが宗平らしいと言えば宗平らしいけど…。 「…ごめん宗平。俺、誤解してた。」 ポンポンと肩を叩きながら言うと宗平は「別に誤解したままで良かった。」とボソリと答えた。 俺は1度周りに視線をやる。授業の開始が近いからか先程まで自販の周りに居た生徒たちはもう誰も居なくなっている。 ここには今、俺と宗平だけ。 「…でも誤解したままだったら俺、宗平のこと嫌いになってたかも。」 そうオーバーに言うと宗平はバッと顔を上げる。 「でも今はもっと好き。」 そして言葉を付け足すと今度は困ったように眉尻を下げた。 「俺がキスしたくなんの分かってて言ってるだろ。」 「……うん。」 「……それ、意味分かって頷いてる?」 それにもまたコクリと頷くと、宗平は立ち上がってから自身の髪を少しぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。 「…やっぱここじゃ無し。」 しかし宗平から言われた言葉に俺は「え?」と顔を上げた。 「するならたっぷり味わいてぇし。」 …食べ物みたいだ。いや、ある意味食べられているが…。 「じゃあ…今日は俺も準備室ついてく。その後で…どっかでしよ。」 「キス以上もアリ?」 「…どこまでする気。」 「それは春人のかわいさ次第。」 そんな言い方をされると…あまり深いことをされなかったら俺の態度が良くなかったみたいじゃないか…。 「…ずるい言い方。」 「嫌いになった?」 意地悪く笑う顔。 その問い掛けに対する答えは、準備室でコピー機を借りた後に教えてあげた。

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