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8/4(火) 4

宗平と向き合うには、俺と長岡の関係を全て1から話すしかない。 「長岡は、俺を、恨んでて…。」 小さな声で話し出した俺に宗平は「…うん。」と言って促すように相槌を打つ。 「そんで…俺を抱いてたのは…復讐のためで…。」 「あぁ。言ってたな。俺は裕大が妊娠のリスクも無い気軽な相手として春人のこと利用しようとしてんだって解釈したんだけど…違ぇの?」 「…分かんねぇ。長岡の考えてることは俺も今でも分かんねぇ…。けど…長岡の態度が…なんかその、思わせぶりな時とかあって…。」 礼真とのことが無かったら、俺は警戒することなんてしないまま長岡の言葉に翻弄されていただろう。 宗平は不快そうにしつつも言い淀んでいた俺に「…それで?」と先を促す。 「…俺、宗平のことフッた時、ずっと苦しくて、辛くて、そんな時長岡が『宗平のこと忘れろ』って言ってくれたから、なんかそこに逃げ道見付けた気分になって…。長岡に…甘えてた…。」 「……。」 宗平の表情が更に暗いものになった。 宗平をフッたあの時、宗平を突き放しながらも長岡と関係を続けていた時のことを改めて話すのは、これが初めてのことだった。 「だから宗平と付き合ってから長岡にされた時、宗平と付き合う前に利用してた負い目が重なって…。絶対ダメだって分かってたのに、それでもあの時は長岡のこと見捨てるみたいで…。…自分が嫌な奴になるのが怖かったんだと思う。でも、ごめん。俺本当に宗平にも、長岡にも最低なことしてたっ…!」 頭を下げるような形で…、しかし実際はもう宗平の顔を見ていられなくて俺は顔を上げられないまま俯く。 「…あの時…。」 俯いたままの俺の耳に宗平の声が届いた。 「あの時、ずっと様子がおかしかったのに俺には何も言ってくんなかったのはそういう事だったんだな…。」 納得したような宗平の声。だが同時に到底納得など出来るはずもないという怒りがヒシヒシと伝わってくる。 「…でも4月入ってから急に元気になったろ?あれは?」 「あの時は…、マイ…山さんに相談したら、長岡にはきちんと『宗平を選ぶ』って話をしろって言われて…それで…そしたら…長岡も理解してくれたみたいで、そっから何も無くなったから…。」 俺は状況説明のようにあの時あったことを正直に伝えたが、それを聞いた宗平は「は?」と、更に不機嫌な声を上げた。 「舞山さん?なんで?」 「……え?」 「なに?俺には言えなかったこと、舞山さんには相談してそれで舞山さんからのアドバイス実行して解決出来たっての?」 「えっ…いや、だって…。」 宗平には相談出来ない内容だったから…。 しかし困惑した俺は上げた視線の先で宗平の泣きそうにも見える表情が見えてギクリとする。 「っなぁ…、俺さぁ!春人が悩んでる時は…支えてやりてぇし助けになりたいって話もしたよな!?なんで…俺じゃなくて舞山さんな訳っ?」 「だって…そんなの…。」 「春人が困ってる時何の力にもなれねぇし相談すらしてもらえねぇなら、俺ら何の為に付き合ってんだよ!」 「っ…。」 きっと宗平自身、俺が言いたくても言えなかったことは理解してくれている。 それでもこうやって不満を吐き出してしまいたくなる程、付き合っているのに頼りにしてもらえなかったどころか他の人に頼られてしまったことがきっと、もどかしくて、悔しくて、悲しい。 「…ごめん。」 謝った俺に宗平は何も言わずに頭に手をやって髪をぐしゃりと握り込む。 暫くの沈黙が2人の間に重く落ちた。 「…なぁ、本当に4月からは何も無かったのか?」 どのくらいの間そうしていたのかは分からないが、宗平が口を開いた。 「…何も無い。本当に。」 「…裕大のこと紹介してほしいって言ってきた人と3人で出掛けたってのも…嘘じゃねぇ?」 「嘘じゃない。4月になってから、宗平に嘘なんて吐いてない…!」 今の俺の言葉がどれだけの効果をもたらすのかなんて分からない。 けど、信じてもらうために何をして良いのかも分からなくてただ「嘘ではない」と伝えるばかり。 「…俺が好きってのも本当?」 「っ本当だ!じゃなきゃ…こんな嘘吐かなかった…!」 お願いだ。信じてくれ…。 祈る俺の正面で、宗平はその後何も言わなくて…、再び俺たちの間から会話が消える。 「………それで…。」 また暫くして宗平がポツリと口を開く。 「森口礼真ってのは…春人の何な訳…?」 そしてその言葉で長岡との話は一旦これで終わりとして礼真の話へと移行するのだと分かった。 俺も宗平も、この状態で話を続けるのはとても辛いと分かっていたが、これも話さなければいけない問題。 ───だが、少しの違和感。 「……宗平。俺、宗平に礼真の苗字って言ったっけ…?」 そう尋ねると、宗平は少し、目を細めた。

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