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8/5(水) from宗平

気が全く進まないまま参加した部活で、昨日話を聞くまでとは全く違う感情で裕大を視界に入れる。 その涼し気な顔を見る度にイライラとした感情が募って、春人に手を出したことが許せなくて、殴ってやろうと思い呼び止めた俺に裕大は静かに応じた。 「3月に春人がボロボロだった時、やっぱ裕大が原因だったんじゃねーか。」 睨み付けながら言うと裕大は静かに俺を見て「殴りたいならどーぞ。」と言って目を瞑り頬を示した。その行為に更に怒りが湧いて思いっきり拳を振り抜いた。 よろめき、壁に手を着いた裕大。その姿を見ても、指の痛みを感じるだけで全くスッキリなんてしない。 「…1発で良い訳?」 「っ、良くねぇよ!!」 まるで…、殴られることを望んでいるような言い方が怒りを煽ってジリジリと痛む手を無視して拳を作り何度か殴り付ける。 だが……。 「っ…。」 手が痛い。 胸が痛い。 殴る度に、こんなことをしても答えは出ないのだと、ここに答えは無いのだと突き付けられているような気分になる。 素人の俺が裕大に与えられたダメージはせいぜい最初の1,2発くらいで、後は大して痛くもなかったらしい裕大はまだ俺の前に立ったまま。 そして暫くしてから俺がもう殴ってこないと判断したのか裕大は口を開いた。 「なぁ、春人と別れんの?」 その問いに俺は答えられない。いや、答える義理などどこにも無いのだが、まだ自分の中にも答えを見つけ出せていないのが正直なところだ。 本当は昨日、春人が俺に嘘を吐いていたのが事実でも、やり直すつもりで話を聞きに行った。 しかし実際に話を聞いてみると過去は俺の想像以上に悪く、決意は、簡単に揺らいだ。 そんな俺の正面で裕大は息を吐いてから俺を見据える。 「早く別れてくんね?そしたらまた状況が変わるかもしんねぇし。」 「……あぁ?」 本当に何が望みなんだ、裕大は。 3月に問い詰めた時にも似たようなことを言っていた気がする。 「…俺と別れて落ち込む春人に取り入ろうってか?」 冗談のようなつもりでそう問いかけたのに、それを聞いた裕大は一瞬品定めするように俺を見て口元に笑みを浮かべた。 「だったらどうする?」 「お前っ…!本気で言ってんのかよ。」 噛み殺してやりたいくらいの気持ちで言った俺に裕大はクスリと笑う。 「ずっと本気だったんだけど?」 「…ずっと本気だったけど春人に断られてからは律儀に触れずにいたって?そんな奴が付き合ってる奴居る人のこと無理矢理抱くか?」 睨みながら言った俺に、先程とは違い裕大は何も答えずに僅かに眉間に皺を寄せた。 「…裕大。お前いつから本気だったんだ?」 「……笠井のくせに妙なとこだけ勘いいの。」 裕大はいつもの余裕に、少しばかりの不快感を滲ませて笑うと何も言えずにいる俺に「話終わったんなら俺行くな。」と言ってその場を後にする。 「…んだよ。それ。」 言葉は、脳内に浮かぶまでもなく、ただその一言のみしか出てこなかった。

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