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8/4(火) 6
家に帰る前に携帯をなんとなく開くとマイマイからメールが1件入っていた。
内容はバイトのために帰らなければいけないので部屋の鍵を開けっ放しにしてしまうのを詫びるものだった。
部屋の鍵は開けっ放しだったり閉めたりと俺もまちまちだから…まぁいい。
とにかく今は、何も考えたくない。
しかし帰った部屋の中でいつかのように長岡が俺を待っていた。
「…ひでぇ顔。」
涙を散々流した肌が若干突っ張っている俺の顔を見て長岡はそう言った。
「笠井とケンカすんのは構わねーけど少しは近所迷惑考えろよな。」
宗平と河川敷に行く前に、家の前で騒いでしまったことを言っているのだろう。
もしかして長岡が不審に思った下宿生や長岡の両親を誤魔化してくれたりしたんだろうか…。
「…ごめん。何かフォローとかしてくれたんなら…ありがと。」
俺がそう言うと、俺の顔をジッと見た後に長岡は溜め息を吐く。
「笠井なら大丈夫だろ?お前の中学時代がどんなだろうが結局アイツは…。」
「違う。」
喋る長岡を遮って否定する。
意図を確認するように俺の方を見てきた長岡を見つめ返し口を開く。
「付き合いだしてから…お前とあったこと…バレた…。」
小さくそう言うと長岡は珍しく気まずそうな顔をした。
「……別れたのか?」
「………まだ。」
まだ。
そう、まだ。
けど宗平からの別れのメールは明日には届くかもしれない。
いや、今日の夜には…、この瞬間にだって──…。
想像してまた胸が苦しくなり、俺は枯れたのではと思っていた涙をまたボロボロと流し出す。
長岡は突然泣き出した俺を前に酷く居心地の悪そうな顔をした。
…それもそうか。長岡からしたら今正に俺から責められているような気分になるのかもしれない。
しかし俯いていた俺に長岡がゆっくり歩み寄った。
「っ…!?」
そして俺の頭を抱えて自身の胸に抱き寄せるように軽く押し付ける。
一瞬何が起こったのか分からなくて呆けた俺が、漸く抵抗を見せようとすると、それより早く離れて長岡は部屋を出て行った。
「……。」
残された自分の部屋で1人佇む。
1人になった部屋が、嫌に広く感じてしまった。
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