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8/8(土)
「いや〜。突然誘ったのに全員来れるって皆どんだけ暇なの〜?」
そう言ってヘラヘラと光汰が笑う。
今日開催の花火大会に4人で行かないかと光汰から連絡を貰ったのは昨日の夜。
その花火は宗平と行こうと話していたもので、もしかしたら宗平も来るかもしれないなんていう下心と共に俺はその誘いに応じた。
そして出向いたその先で、宗平を見つけてまた泣きそうになってしまった俺に宗平は「よっ…。」と小さく声をかけただけだった。
「ところで光汰、花火は里沙さんと来るって言ってなかったっけ?」
電車を降りて花火会場へ向かう道すがら瑛二が光汰に尋ねる。
瑛二の質問に光汰は「あー、うん。そうなんだけどねー。」と歯切れ悪く答えた後に気まずそうに続けた。
「いや、俺さー。里沙と別れたんだよねー。」
「えっ!?」
俺は思わず声を上げてしまった。
全く予想していなかったその報告に驚く俺と、声はあげなかったものの同様に驚いた表情の瑛二と宗平。
「え、なんで?」
詳しく聞いていいのかな?と思いつつやはり気になるので尋ねると「うん。茉莉香のことでねー。」と話を始められる。
え、いや。茉莉香って誰。
「?」顔の俺に気付いた光汰が「あ、春人には話してなかったかも。」と言いながら茉莉香さんが里沙ちゃんの元カノであり、元ストーカーであり、今や光汰の良き相談相手で友人だったと明かされる。茉莉香さんの紹介要素多いな。
「まー俺さ、前から里沙には秘密で茉莉香とよく会ってたんだよねー。茉莉香今年から専門行き始めたんだけどそこの人間関係上手く行ってないみたいでそれ相談されたり、逆に俺は里沙とのこと相談したり。ほんと良い友達だったよー。」
そう言いながら光汰は苦笑いする。
「でも夏休み入ってすぐら辺にねー、俺、茉莉香から告白されてー。」
「えぇっ!?」
今度は宗平も一緒になって声を上げた。
瑛二は相変わらず驚き顔だけど声は上げなくて、代わりに「茉莉香さん女性が好きなんじゃなかったの?」と光汰に尋ねた。
「うん。俺もそう思ってたし、茉莉香自身もそう思ってたみたいなんだけどー、なんか『好きだって気付いちゃった。』って言われてー。しかもそれを里沙が見てたんだよねー。もーそっから凄いの。茉莉香は元々泣いてるし里沙も泣いて茉莉香引っぱたくし、俺も引っぱたかれるし。」
…想像しただけで凄い状況なのは分かる。
だが…、これは今の俺たちには少し辛い話題だ…。
そう思いながら暗い表情で「そんで里沙ちゃんにフラれたのか?」と光汰に尋ねる宗平をチラリと見る。
「んー。最終的に別れようって言い出したのは俺。でもその後里沙に『こっちから願い下げだ!』って部屋追い出されちゃった。これってどっちがフッたことになんの?」
「え?光汰から言い出したのか?」
里沙ちゃんに夢中だった光汰を思い出して思わず聞くと光汰は立ち止まって視線を泳がせる。
気付けばもう花火会場に着いていて、ザワザワと聞こえる人々の話し声の向こう側から聞こえたボヤけたアナウンスの後に花火の大きな音が全てを掻き消すように鳴り響いた。
「なんかさ『面倒くさいな』って、思っちゃったんだよねー。」
「え?」
花火や人々の歓声の中から薄ら聞こえた光汰の声を拾う。
光汰は暫く打ち上げられ続けた花火を見た後に、俯き、どこか虚ろ気に口を開いた。
「茉莉香に告白された後、里沙に今までのことも全部話したんだけど…、謝っても何しても里沙全然納得してくれなくて。でもそんな里沙のことをさ、俺、面倒くさいなーって…思っちゃったんだよねー。里沙が泣いてんのに、関係を修復すんのが面倒だなって…。そしたら、ここが俺らの終わりなのかなって。」
そう光汰が言い残すと同時に再び花火が上がり出し、破裂音が周囲を埋める。
しかし光汰は落とした視線を地面から上げることはしなかった。
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