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8/8(土) 2

だが突然顔を上げた光汰は「はい、じゃあそういうことで!傷心の俺に皆それぞれ何か奢ってくれるよーに!」と大きな声で言い出す。 えぇ?と顔を顰める俺の横で瑛二が即座に反応した。 「嫌だよ。何。傷心って。傷心は里沙さんだよ。」 うわぁぁ。瑛二相変わらずきっつい。いや、正論なんだけど。 そんな瑛二と不貞腐れる光汰を見ながら笑った宗平は「まー何も無えのも寂しいし、何か買ってくるか。」と言ってその場から離れて行く。 「……春人行かないのー?」 「え?」 宗平の後ろ姿をただ見ていた俺に光汰が声をかけてきた。 「俺らここで待ってるし行っといでよー。」 俺と宗平が付き合っていることを知っている2人は気を遣ったように俺を送り出そうとしてきて、戸惑いながらも俺は宗平が離れすぎてしまう前に急いでその背を追いかけ宗平の手を掴んだ。 「春人…。」 驚いた顔で振り返った宗平は俺の名前を呼ぶと「待ってて良かったのに。」と言いながら前に向き直って歩き出す。 掴んだ手は…歩き出した時に解かれてしまった。 「…。」 何も言葉を交わさない。 横で上がっている花火になんて目もくれないで、宗平の後ろ姿だけを見ながらその後について行く。 光汰の話を聞いて…、宗平は、何を感じたのだろう。 「っあの…宗平!」 叫ぶように呼びかけると宗平が足を止めて振り返った。 それと同時に花火が連続で打ち上げられて歓声が一際大きくなる。 一時だけ、それを2人で立ち止まって眺める。 そして暫くすると花火の打ち上げが止み、パラパラと微かな音を残しながら萎むように火花が消えていく。 「俺…、面倒だなんて、絶対思わないから…。」 もう1度宗平の手に微かに触れながら言うが、宗平は何も返してこない。 そして次の花火が打ち上げられる前に宗平は再び歩き出した。 同時に抜け出すように離れて行った手。 周囲は纏わりつくような暑さなのに、なんでか宗平に触れていた手だけが嫌に冷えて感じた。

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