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第2話

「はーーー!生き返りました!!」 さっきのか細い声と裏腹に、坊主は元気な声を張り上げた。 お腹空いて具合が悪かった坊主を抱えながら、とりあえず自分の部屋に連れ込んだ涼は冷蔵庫にあった食材で調理をし、食べさせた。 幸い、先週食材が実家から大量に送れられていたことと、バイトで培った(つちか)料理の腕が腹ペコ坊主を救ったのである。 「生き返って何よりです…ってか、なんでそんなに腹ペコで歩いてたんですか」 食後のお茶を淹れてやりながら、涼はタバコを口に咥える。 「檀家さんの法事がご自宅でありまして…、結構長くなっちゃいましてね。お昼も呼ばれてたんですが早く帰りたくてつい…」 早く帰りたいなどと坊主が言っていいのか、と思いながら涼はライターに手をかけた。 「タバコ吸ってもいいですか?」 「構いませんよ、というか貴方の家じゃないですか」 たらふく食って上機嫌の坊主はニコニコ顔だ。 涼の入れたお茶を美味しそうに飲んでいる。 「料理、お上手なんですね!早いし美味しいし…、コックさんなんですか?」 無邪気に聞いてくる坊主に痛いとこつくなあ、と心でつぶやきながらも苦笑した。 「コックらしきものはしてたんですけどね、バイトで。ただこの前店が潰れちゃって」 自分が作ったエビチリを一口頬張りながら自重気味に涼は呟く。 「今やこんな歳なのに、フリーターですよ」 「…あ」 坊主はまずった、というような顔して俯いた。 一瞬気まずい空気が流れる。 「気にしないでくださいよ、初対面でこんな辛気臭い話も良くないなぁ…そうだお坊さん何歳なんですか」 「わ、私ですか。今28歳で…」 「えっ同い年?!」 ギョッとしたのは涼だった。 落ち着いた風貌なので(坊主だけに)てっきり年上だと思い込んでいた。 「そうなんですか、同い年なんですね。私は実家が寺なので、継ぐために今副住職なんです」 「へーーー」 同い年で副住職とフリーターかあ、と涼は呟く。 「あああ、自分がイヤになって来た…」 「何でですか」 「だって友達もアンタもちゃんと働いてて稼いでてさ、オレなんてこの歳でフリーターよ」 情けねえよ、と片手で頬杖をつく。 坊主は少し困ったような顔を一瞬見せたが突然、テーブルに乗せていた涼の手を取って握ってきた。 「お、おわっ?」 「そんなことで自分を卑下(ひげ)しないでください…!今は苦しくても仏様がついてくれていますっ…!」 坊主はさらに手を強く握って涼を見つめる。 イケメンの坊主にこんなに近くで見つめられるなんて、と思わず生唾を飲む。 (仏様なら今ここに降臨してくれたよ…!!) 「わ、分かった…です」 理性が吹っ飛ぶ前に涼は手を何とか外した。 「良かった…!」 ホッとした顔を見せる坊主。 何だか抜けた奴だなあ、と涼は笑った。 「お坊さん、名前は?俺、涼って言うんだ」 「私はですね、リュウカンです…ああ、漢字にしたらこうです」 サッと筆記具を取り出して『隆寛』と書いた。 「寺ではリュウカンですが俗名はこのままでタカヒロです」 「ああ、なるほど…」 中々合理的だな、と涼は思った。 「いつもあの駅使ってんの?」 「そうですね、私は大抵移動は電車を使いますので」 ふうん、と茶を飲みながら隆寛を見た。 「じゃまた会うかも?」 「涼さんも最寄りですし、会うかと思います。その時は声かけてくださいね」 ニッコリと隆寛は微笑んだ。 よっしゃーー!と涼が心のなかで叫んでいるなんて、気がつかないだろう。

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