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第4話
大学を出て歩いて5分ほどの公園に2人で向かっていた。
お互い特に何かを話すわけではないが気まずさはまったくなかった。
「そういえば俺名乗ってないよな...?」
俺は新入生代表挨拶の時白坂の名前を聞いていたから尋ねる必要はなかったが、そういえば自分の名前を教えていないことに気づいて尋ねた。
白坂は短く「ん。」と言って頷くとじーっとこちらを見てくる。
ぜんぜん表情が変わらないけど、じーっと見つめてくるからきっと名前を教えてほしいという意思表示なんだろうなと思って俺は白坂に答えた。
「俺は白木優真っていうんだ。優しいに真実の真で優真。君は白坂恭介くんだよね?入学式の挨拶見てたよ、かっこよかった。」
俺の名前を聞いた白坂は小さく「ゆうま」と呟くと、嬉しそうにふわっと微笑んで「恭介でいい」と言った。
俺はその笑顔にやられながら「俺も優真でいいよ。じゃあ恭介、改めてよろしく。」と微笑み返した。
恭介はすごく満足そうな顔をしてさっきより心なしか嬉しそうに歩く。
そんな彼を可愛いなと思いながらも何だか照れくさくなって、恭介の顔をまともに見れないし話しかけることもできなくなってしまった。
俺は自分から声をかけられないし恭介はもともとあまり喋らないからその後公園に着くまでほとんど会話はなかったけれど、名前で呼び合えた、ただそれだけですごく嬉しくて心が満されていくのを感じていた。
***
公園に着くと恭介は入って右奥の桜の木の近くに向かった。後ろを付いていくと、桜の木の裏にダンボールがあるのが見えた。
「にゃー」
小さく猫の声が聞こえた。
「あ!声!」
俺が言うと恭介はにこっと微笑んで段ボールの前にしゃがみ込んだ。
「みーこ、来たよ」
「んにゃあ~」
さっきより甘えた声が聞こえる。よっぽど恭介に懐いているんだろうか。
どんな猫なのか気になって恭介の横にそっとしゃがんで段ボールをそっと覗き込んでみた。
「か、かわいい…」
そこにいたのは子猫の三毛猫だった。目はくりっとしててまんまるで、毛は野良とは思えないほどふわっとしている。ちょっと短めの耳がまたとんでもなく可愛らしくて、俺は完全にみーこの虜になっていた。
完全に頬がゆるゆる状態で夢中でみーこを見つめていると横からくすっと笑った声が聞こえた。
「可愛いでしょ、みーこ」
俺を見て嬉しそうに恭介は言う。
でれでれになっていたのをずっと見られていたことに気付いた俺は恥ずかしくてちょっと赤くなりながら頷いた。
「みーこ、二週間前くらいに見つけたんだ。この公園で。俺の家動物だめだから。でもほっとけなくて。」
みーこの頭を優しくなでながら恭介は言う。
野良なのにみーこがこんなに元気そうで毛並みもきれいなのはきっと恭介が毎日大事に世話をしてあげてるからなんだろうな、と思うとその優しさにちょっと胸がきゅうっとした。
「でもずっとこのまま外で世話するわけにもいかない。みーこが心配。飼い主探したい。」
恭介はちょっと寂しそうに言った。
「お、俺ん家で飼おうか!?俺、マンションだけどペット可なんだ!あ、それに、ほら、俺が飼えば恭介もいつでもみーこに会いに来れるし!」
なんでそんなことを言ったのか自分でも分からない。
寂しそうな恭介の表情を見たからだろうか。恭介の愛情をいっぱい受けるこいつがほっとけなかったんだろうか。
気づいたら反射的にそう口走ってしまっていた。
でも言った後に、まだ仲良くなったばかりなのにうちに来ればとかめちゃくちゃ馴れ馴れしかったんじゃないかと思って焦り始めた。
「あ、で、でも大して知らない会ったばっかのやつの家とかあんまり来たくないよな!?ご、ごめん、なれなれしか…」
「いいのか?ありがとう。」
テンションがおかしくなってわたわたとしゃべっている俺が全部を言い終わらないうちに恭介の声が聞こえた。
ありがとうと聞こえて俺はちょっとびっくりしてしまった。
「え、逆に嫌じゃないか...?俺が恭介の大事なみーこ預かっていいの?」
俺が戸惑って言うと恭介はにっこりと笑って
「優真ならすごく安心だし嬉しい。」
と言った。
俺は嬉しくてなんだかふわふわした気持ちになった。
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