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第3話
体の力を抜いたら背中に手を回されて、もう片方の手で手を取られる。静かにベッドに座らせられた。目が見えないから、騎一の息遣いや触れ合った肌の感覚がより鋭敏になっている。身体中がぞわぞわした。
視覚がないって、結構、夜の砂漠にたった一人で取り残されたような気分になるな。
「……脱ぐよ。」
Tシャツの下に騎一の白魚のような手が、遊泳するように入り込んできた。郁の体は反射的にびくりと跳ねずにはいられない。
「……ッ、う……。」
「……いいかな。」
同意の代わりに、自分の腹部をなぞるように泳いでいく騎一の手をそっと捕まえた。この手が彼の手であると証明できるのは、首筋に感じる騎一の笑う吐息だけだ。身震いする刺激ですら縋りたくなる。
「郁……身体真っ赤だよ。そんなに恥ずかしいの、ねえ。」
Tシャツを脱がせ終わった騎一は、わざと郁の耳元で囁くように声を漏らした。
「素肌を見られるのは今日が初めてってわけでもないのに? もっと恥ずかしいこといっぱいしているじゃん、俺たち。」
「っ、るっせえ、なあ! 早く、しろよ……!」
背後に騎一の体温を感じる。ぴったりくっついている。触れ合っている肌だけが、視界を奪われている郁が感じられる世界の全てだ。温もりがやけに煽情的に腕や首筋をなぞって、最後に腰を滑っていった。
ズボンのボタンを外しにかかる騎一の手を、郁は反射的に遮る。
「……まっ、て。」
宥めるように耳元に響く。彼の声が。
「郁、スキニーを穿いたままドレスは着られないよ。腰上げて。」
騎一の手が脚の付け根から太ももをすうッ、となぞる。なんでこんなにゾクゾクするような触り方をするんだよ。クソ。左耳がこそばゆい。耳殻には騎一の唇が触れていて、囁く声を直接耳に流し込まれているようだった。
「……ゃ、っ、んッ……じっ、自分でっ、脱ぐ、から……っ。」
「……そう? なんなら下着も変える?」
「はあっ? 変えっ、な……んっ……、ぅ……!」
郁は身悶えしながら羞恥心と戦って、なんとかスキニーを脱いだ。騎一がため息を漏らす。
「郁の素脚ってえっちの時しか見られないけど……ほんと綺麗だよね……人形の脚みたい……埋まりたい……。」
なに言ってんだこいつ。思いがけない言葉に飛び跳ねる。目隠しされていてよかった。今ものすごく情けない顔をしていると思うから。全身が熱い。
「っ、ん……!」
執拗に内腿を撫で付けられてついうっかり変な声が出てしまった。身体が熱くなる。その累乗、騎一の吐息も熱くなっていた。遠くで衣擦れの音が聞こえる。
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