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第4話
「郁の素脚が目立つようにちょっと短めの丈のドレスを選んだよ。郁の好きな烏の濡れ羽色。差し色のくすんだ真紅も綺麗だったでしょ。パニエを盛り過ぎなくらいつっこめばもっと丈が短く見える……実際ロリータってスカートは膝下が至高なんだけどね……郁は特別! だって絶対短めのほうがいい! 想像しただけでやばい!」
上から被るよ、という声と同時に騎一の体温が離れる。目隠しされてからずっと触れていた体温が消えた。世界に取り残されたような気分になる。しっとりした布の音と一緒に頭上に静かにドレスが覆い被さった。
「御手を拝借。」
ただ服を着ているだけなのに、とてもびくびくしていた。体が冷たくなっていく。腕に騎一の手が触れたのが分かる。とても温かかった。求めるように繋いだら、それを伝ってスルスルと袖を通される。
両方の腕が袖を通ると騎一の手が郁の脇の下でくしゃくしゃになっているドレスの裾を丁寧に伸ばしていった。見ないでも分かる。その手つきはとても丁寧で神聖だった。彼の洋服に対する気持ちが溢れている。
「ちょっと緩いかな。郁ってほんと華奢だよね。」
素肌だった腹部が少し冷たい布で覆われる。ふさ、と感じたことのない感覚が太ももの上に被さった。これがドレス。
変なの。
戸惑っていたら後ろからうなじに唇を落とされて、氷水に突き落とされた時のような声が出た。まあ突き落とされたことないんだけど。
「チョーカーは百合の刺繍の入ったチュールレースたっぷりの黒い上品なやつにしたよ。ワンポイントのリボンがすごく可愛いんだ。お花畑みたいでうっとりする。」
首を艶かしくなぞられているせいで、なにを言っているのか半分も内容が入ってこない。
「や、ッ……!」
騎一の手じゃないものが首に触れた。
これ多分チョーカー。
「なんか今日敏感だね。」
「うる、っせぇ!」
誰のせいだと思ってんだよ!
「あはは。ヴェールもお揃いのレースなんだよ。両端の大きなリボンが可愛くて、郁の短い髪によく似合う。」
ヴェールを髪につけられながら、なんかぞわぞわする感覚に郁は苛まれた。本当に。いつも以上に。心拍数が上がりまくっている。パルクールをしている時だってこんなに上がらない。なんでだと不可思議に高揚している胸に落ち着け、落ち着けと言い聞かせながら必死で答えを探した。
上手に見つからないうちに、騎一に後ろから強く抱きすくめられる。恍惚のため息が真後ろで溢れていた。体の力が抜けそうになる。
「郁……自分が思ってる以上にすごく着こなしてるよ。ねえただでさえ可愛いのに、これ以上俺を魅了するなんて郁って変態なの?」
いやお前にだけは是が非でも言われたくないけど。言葉にする余裕がない。
背中越しに騎一がクスクス笑っている。
不意に脇腹を彼がなぞった。声を殺す。
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