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第7話

「世界一可愛い……俺の郁……やっぱり見立てもバッチリだったし、俺の審美眼マジ最高。ほんっとかわいい。攫って襲いたい……。」  いやどこが? と喉元まで出かかった言葉を、郁はなんとか呑み込んだ。これを言ってしまっては自分の中でなにか大切なものを失いそうだった。可愛いってことで、自分をなんとか納得させる方向でいきたい。うん、無理だ。 「目隠し外すね。」  問答無用でサテンのリボンが解けていく。さらさらと。久方ぶりに目を開いた。視界一杯に騎一の顔が現れて、郁は思わず仰け反った。心臓がバク、と一度大きく拍動した瞬間、身体に力が抜けて、そのまま後ろから倒れそうになる。 「郁……?」  騎一が当然のように支えて彼を引き寄せた。 「わ、悪い……。」  目がうるうるした。顔から火が出そう。 「可愛い。」  騎一は改めて言う。目が合った瞬間、足の力が抜けそうになる。ちら、と騎一を見た。騎一は微笑んでいたけれど、瞳が完全に艶っぽい。見るに耐えなくて、俯きながら郁は照れ隠しのように口を開く。  手を自分から絡めた。騎一の吐息が唇にかかる。 「お前、すげえな……。」  郁は自然と口を開いていた。 「この服、重いし……動きづらいし……すごく苦しくて、息しづらいし……足は痛いし、すーすーするし……歩けねえし。」  目が合って、一瞬目を逸らした。でも視線が熱くて、郁はもう一度伏し目がちな瞳で騎一を見た。 「ほんとすげえよ。その……。」  さっきからずっとずっと思っていた。今までもこれからも思う。  騎一は言葉を待っているような丸い瞳で郁を見る。  言え、言え、と自分を叱咤した。  乾いた口でなんとか伝えた。 「……恰好いい。」  照れたように笑う騎一の顔が目前に広がる。花が咲いたみたい。その笑顔が眩しすぎてくらくらした。 「ありがとう。」  啄ばむようにキスをされる。  大きなぬいぐるみにするように、騎一は郁をぎゅうぎゅう抱きしめた。  直視したくないけれど、郁は意を決して姿見で自分の姿を見た。  ため息が溢れる。 「これはやっぱお前が着るのがいいよ。」  鏡の中の騎一が絶望と驚きを足して二で割ったような顔をして郁を見上げる。 「なんで!? こんなに可愛いのに!? なんで!?」 「いや明らかにお前が着たほうが可愛いだろ!」 「やだ嬉しい好き! いや違うそうじゃない!」  ぎゃあぎゃあ言っている騎一を差し置いて、郁はもう一度ため息をついた。苦しいなあやっぱり。 「俺はお前じゃないし、この服は俺のための服じゃない。」  騎一がピタリと口を止めた。 「……お前が着ているほうがいい。」  彼はその言葉に一瞬だけ慈しむように目を細めた。  その後小さく郁の頬に唇を寄せる。気持ちをはぐらかすように変なことを口にした。 「でも俺の匂いで興奮したでしょ。」 「え?」  思わず声が裏返る。騎一は郁の腰をなぞりながら、吸い付くように郁の首筋に顔を埋めた。  

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