このにおいを嗅いでいると、結城自身の意識も朦朧としてくる。 　これは完全な発情のにおいではない。 　けれど、少しでも油断すると理性が飛んでいきそうになる。 運命の相手だというだけで、それはとても、呆気なく。 　旧校舎にある結城の秘密の場所に凛太を横たえたはいいが、体を丸めて苦しそうに呼吸をしていて会話すら難しそうだ。 　潤んだ目元が一度も結城を見ない事に僅かに苛立ちながらも、貴族風衣装の前を開けた結城は努めて優しく凛太に声を掛けた。 「りんりん。 薬は？ 飲んでないの？」 「…っ、飲んでます…でも、予定では五日後なんです…」 「そうなんだ。 て事は、俺と接触して早まったんだね」 「早まっ…？」 　そこで何故、首を傾げるのだろう。 　先程もそうだ。 　腕を掴んだ結城からは離れられないと分かりきっていたのに、凛太は一歩一歩後退した。 　結城のロミオ姿にうっとりした表情を見せたのはほんの一瞬だけで、あとはずっと下を向いてつむじを拝まされた。 　衝撃的な出会いから結城は、日々凛太の姿を目で追い、こっそり見詰めてくるいじらしさに悶えていたというのに。 　いざ話し掛けても凛太は一切こちらを見ない。 　好きだから、見詰めていたのではないのか。 　凛太の姿も、声も、結城は待ち望んでいた。 熱い視線には確かに恋情が乗っていたのだ。 　勘違いではない。 　頑として結城を見てくれない現状を、突発的な発情期を迎えて苦しいからなどという言い訳は通させたくなかった。 「とりあえず脱ごうか。 これ着て」 「えっ…？」 　理性をかき集めた結城は、凛太のブレザーに手を掛ける。 「あ、あのっ、だめです、…むりです、」 「……無理？」 「はい、…僕は、…Ωなので…」 「そうだね。 俺はαだから、ヒート抑えてあげようとしてるよ」 「だっ、だめです！ …むり、なんです…」 「何が無理？」 　これだけ結城を惑わす香りを放っておいて、凛太は頑なだ。 　ブレザーも、カッターシャツも、スラックスも、下着さえも脱がすのは容易だった。 　抗う体力すらない、凛太の言葉だけの抵抗は結城の苛立ちを生む一方である。 　凛太の腹に馬乗りになり腕を動かして衣装を着せていると、結城の意識も朦朧としてきた。 　初めて体感する強烈な欲情が、息も絶え絶えな凛太の華奢なタイトワンピース姿を見てさらに燃え上がった。 「可愛い…綺麗だよ。 絶対に似合うと思ってた」 「………っ？」 「苦しいの、止めてほしくない？」 「とめて、…ほしいです…っ、でも…っ」 「でもは聞かない」 　ワンピースの裾から覗くすべすべの太腿を撫で上げて、甘い吐息を零す凛太の唇を奪った結城はすっかり冷静さを欠いていた。 　こんなはずでは無かったのに、これは本能のせいだと、舌を絡ませながら自身には言い訳をして濡れた後孔を探った。