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あと十五日 ─凛太─
発情してからの抑制方法は、性を満たすか、エピペンのような自己注射製剤を太腿の内側に打つかしかない。
凛太はあの日から、結城の自宅マンションに囲われている。
病院に行って注射を処方してもらうという提案は笑顔で却下され、大事な文化祭前だというのに凛太の欠席に合わせて結城も学校を休んでいた。
「ねぇ、どうしてりんりんは俺と目を合わせてくれないの?」
「……………」
「エッチした後はそうやってだんまりだし」
「……………」
ふぅ、と溜め息を吐いた結城が、ベッドに腰掛けた凛太を後ろからギュッと抱き締めてくる。
時期の早まったヒート状態の凛太を、親元に帰したところで解決しないと両親までも言いくるめた結城は、彼のひとり暮らしの住まいに凛太を置いた。
見詰めているだけで良かったのに、凛太を「りんりん」と呼ぶ結城は何故か、以前から好きだったとでも言いたげにべったりだ。
この五日間、どれだけ結城に抱かれたか分からない。
心と体が無意識に喜ぶ濃厚な香りが、常に寝室には立ち込めていた。
凛太は乱れ悶えながらも、恥ずかしくて、気持ち良くて、けれど申し訳ない思いも抱いていた。
意識が朦朧としているのをいい事に、結城はありとあらゆる衣装を着せてきて、その羞恥と困惑にも耐えなくてはならない。
凛太の衣装に合わせて、結城もコスチュームを変える。
朦朧としてさえいなければしっかりと眺められたのに、凛太がした事と言えば彼の衣装にしがみついて、目線にくる男らしい喉仏を舐める事くらいだ。
それも、冷静になってくると頭を抱える事象である。
こんな事は望んでいなかった。
凛太は、結城が華麗な衣装を着て友人らと笑い合っている姿を見ているだけで、心が満たされていた。
どうしてこんな事になっているのか、五日経った今もよく分からない。
「ロミオ役の衣装は持って帰れないんだよなぁ。 本番前にぐちゃぐちゃにしたら、さすがに衣装部も怒るだろうし」
「………ロミオ…」
「りんりんはあの衣装が一番好きみたいだね」
「…はい…。 あ、でも今のも似合ってます」
ロミオに扮した結城にまさに一目惚れをしてしまった凛太は、喋ってはダメだと頭では分かっていてもつい反応してしまった。
ぎゅ、と一度抱き締めて離れた結城は、激しい情事で乱れた衣装をサッと直してフローリングの床に降り立つ。
「俺こういうのやるタイプじゃないから新鮮でしょ」
今結城が着ているのは応援団風のコスチュームだ。
ロング丈の黒色の学ランに薄茶色の髪に映える真っ白なハチマキを巻いた結城が、見て見てと言わんばかりに両腕を広げて笑顔を見せていて、セーラー服姿の凛太もつられて笑ってしまった。
「ふっ………はい」
「良かった、りんりん笑ってくれた」
「…………?」
だるさでなかなか立ち上がれない凛太の両頬を取った結城が、至近距離で視線を合わせようとしてきてどうしようかと思った。
嬉しそうな結城は、ちゅ、と一度口付けておでこを合わせてくる。
「好きだよ、りんりん。 いつ声掛けてくれるのかなって待ってたんだぞー」
「……………っ」
「りんりんも同じ気持ちだよね? ヒート期間が終わっても、俺の傍に居てくれるよね?」
何度も口付けてくる結城の唇の甘さに、凛太はうっかり頷きかけて…やめた。
Ω性は、絶対に想いは伝えてはいけない。 ──α性には、特に。
凛太に根付いてしまったΩ性である引け目が、結城への恋心も本能的な直感も侘しく封じてしまっていた。
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