とうとう最後まで頷いてくれなかった凛太は、ぴったり七日後には自宅へと帰ってしまった。 　送り届けた際に凛子から盛大に睨まれたのだが、そんな事よりも、目を見てくれるようになった凛太から迷い無く「ありがとうございました」とお礼を言われた事の方が傷付いた。 　ありがとうとはどういう意味だ。 　ヒートを抑えるためだけに凛太を囲ったとでも思っているのだろうか。 　結城は凛太に、「好きだ」と言った。 　見詰めてくれるのは嬉しいけれど、もっとたくさん話をしようよ。 お互いを知ろうよ。 りんりんの事が知りたいよ。 　行為の最中もそうやってしきりに話し掛けてはいたが、発情中の凛太は上の空だった。 「俺の何がいけないのかなぁ…」 　ひょっとして、コスプレプレイが嫌だったのか。 　ロミオに扮した結城を見て凛太が瞳を輝かせたのを見逃さなかったので、凛太もそういうのが好きなのかと思った。 　凛太に着せたいと目論んでいた衣装はほとんど着せて、「やっぱり最高だ」と興奮に火を付けた己の性癖も、凛太のタイトワンピース姿によって開花した。 　番なのは間違いない。 　セックスしてみて分かったのだが、繋がれば繋がるほど本能が凛太を欲し、全神経が凛太との深い結び付きを知らしめてきた。 　凛太は結城が思っていた以上に麗しく、可憐だ。 　だからといって女性的でもない。 　小ぶりな性器がちゃんと付いていたし、お尻は小さかった。 　そして白く透き通るような肌と、やや細過ぎるが華奢な体付き、舐めて刺激するとプクっと立ち上がる小さくて可愛いピンク色の乳首、貫く度に奥から愛液を溢れさせて啼く淫らな姿…。 「あ、ヤバ…勃った」 「校内で何てことを言ってるの。 結城信者が聞いたら卒倒するわよ」 　凛子と二人で台本の読み合わせをしていた事も忘れて、乱れた凛太に想いを馳せていた結城は、さっと前を隠して顔を繕う。 「りんりんどうしてる？ 俺の事何か言ってない？ あれから体は大丈夫？」 「直接聞けばいいじゃない」 「……避けられてるから…」 　凛太は、あの日を境に覗きに来てくれなくなった。 　意味不明なお礼の後に何の音沙汰もないのは、嫌な予感しかしない。 　想いを告げて、何度となく交わり、朦朧としていたせいかもしれないが結城の性癖にもすべて付き合ってくれた。 　やっと凛太と手と手を取り合えると喜んでいたのに、何日も避けられて結城は落ち込んだ。 　少食な凛太と食卓を囲んだ、柔らかな記憶さえも薄れ始めている。 「なんでそんなに凛太に構うのよ。 結城だったら他に…」 「俺はりんりんがいいんだよ。 本能がりんりんを欲してる。 俺のコスプレもかっこいいって褒めてくれてたし…」 「あ、それは言ってた。 どれも似合ってたけどロミオが一番好きだって」 「〜〜っりんりん…！」 　目立ちたくないと断り続けたにも関わらず、当然のように抜擢された「ロミオ」。 　嫌で嫌で仕方なかったが、高貴な両親の手前断り切るわけにはいかなかった。 　だがやって良かった。 　凛太が「好き」ならそれだけで意味がある。 「あの子はΩ性なんだから、もっと気を付けなきゃいけなかったのよ。 散々言ってきたのに何一つ分かってないんだから」 　今すぐ凛太に会いたいと胸踊らせていた結城は、はぁ、と溜め息を吐く凛子の台詞に引っ掛かって眉を顰めた。 「…散々言ってきた？ 凛子、りんりんに何を言ったの？」 　詰め寄った結城に、凛子は平然と打ち明けてきた。 　Ω性としての引け目を可愛さ故に植え付け、凛太に根深い劣等感を抱かせた言葉達を──。