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零帝の年齢

「来ましたか」  完全に日は落ち、夕食の時間もとうに過ぎた時間帯。  ギルドマスター室に訪れたリースは、ギルドマスターと共にソファーに座った。 「それで、話とは?」  森に入る前、念話でリースはマスターに呼び出しを受けていた。夕食を食べてからでいいと言われていたのでこの時間になったのだが、いつになく真剣なマスターの様子にゴクリと唾を飲む。  零帝様の話か、それとも他の話か、予測を立てながらリースはマスターに尋ねた。  そんなリースに眉尻を下げながら、マスターはそっとリースの頬に触れた。 「水帝……貴方、また隈を作っていますね」  心配そうにリースを伺うマスターに対し、リースは気まずそうにそっぽを向く。 「零帝様が危険な目に遭っているかもしれないという時に、俺一人呑気に眠れるわけもありません」  実際、リースは1年前のあの日から、睡眠を削って零帝を捜索していた。  それは周りが注意して見なければいけない程で、皆の目をかいくぐってリースはよくこうして隈を作っていた。  帝の仕事の合間に零帝を捜索することで、心の平衡を保っていた。 「それでも、体を壊したら元も子もありません。熱を出して寝込んだら、その分捜索に回せないんですよ? 捜索を続けたいのなら、体調管理をしっかりした上でやって下さい。……けれどそう言っても、貴方は無理をすることをやめないのでしょうね」  ため息をつくマスターを、何を当たり前のことを、とリースは見つめた。  実際、リースにとって最も重要なことは零帝であった。  仕事をするのは零帝の負担を減らすため、鍛錬は零帝の支えになりたいから、市民にたまに笑いかけるのは仕事をしやすくするため。  行動の全てが零帝に繋がっている、純粋で、深く、激しい熱情。  そんな彼が、何よりも大切な存在を探すために、自分の体調にまで気を回しているはずがなかった。  そんなリースを見つめ、マスターは本題に入る。 「貴方を今回呼び出したのは、貴方に指名依頼をしたかったからです」 「指名依頼……ですか?」  指名依頼とは、その名の通り名指しでの依頼となる。  通常の任務が魔物討伐が主なのに対し、こちらは様々な種類が存在し、多いのは要人の護衛だ。  けれどさすがに、こんな状態のリースに護衛依頼など持ってこないだろう。  集中力が必要な仕事だ、今その集中力は皆無に近い。  なら何の依頼だろうと、リースは続きを目で促した。 「貴方に、学園へ行って欲しいのです」 「……学園?」 「はい。2週間後から始まる、魔法学園へ通って欲しいのです。言わないと、貴方は学園へ行かずに零帝捜索を続けそうですから」  リースの年齢は、現在15である。  そしてその年から始まる高等部には、その年齢の子は必ず通わなければならないという決まりがあった。  初等部、中等部までの教育は基本的な一般常識であり、独学で学んでいいが、高等部だけは義務教育となっている。  それは高等部を卒業してからの道が、職に就くという大人の仲間入りを果たす為である。専門職の育成を施すことで、死亡率の低下や国の発展などを図っているのだ。  高等部の種類は多岐にわたるが、一番の人気といえばやはり、魔法学園であろう。  それは文字通り魔法に関わる職に就きたい者達が通う場所であり、既に帝という職に就いているリースも、通うならば魔法学園である。  だが、ただ通うことを促すことがなぜ指名依頼となるのが分からず、リースは首を傾げた。  それに答えるように、マスターは口を開く。 「水帝……貴方は、零帝の年齢をご存知ですか?」 「いいえ」 「貴方と、同じ歳です」 「……!?」 「なので貴方には、学園での零帝捜索を行って欲しいのです」  零帝については、謎が多い。  出自、年齢、性別、全て明らかになっていない。  リースは、性別は知っていた。  いつも、誰に対しても念話を使っていた彼がリースに対してふと地声で話し、それ以降念話を使わなくなったので、声で男だというのはわかっていた。  けれど、年齢を気にしたことなどなかった。  自分の何歳か上だとは思っていた。  世間一般的に結構な歳とされているが、少年のような地声が、10は離れているように思わなかった。  だが、さすがに同い年だったとは……驚き、目を瞬かせる。 「彼は、貴方と同じ15歳。学園に通う可能性は、高いでしょう」 「ですが……そうやすやすと、見つかりやすいところに来るでしょうか? 零帝様は思慮深い方です。もし自力で姿をくらましているとしても、そんな分かりやすい所に来るとは思えません」 「いいえ。零帝はきっと、学園に来るでしょう」  不安げに瞳を揺らすリースに対し、マスターははっきりとした口調で宣言した。  瞳に宿る、強い意志の根拠を探るようにマスターの目に注目する。  けれどやはりなぜそんなにはっきりと述べられるか分からずに、眉尻を下げる。  そんなリースを見て、ふっとマスター視線を和らげた。

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