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好きな人の側に

「だって、学園に通えば貴方に会えますから」 「……?」 「貴方の心の支えが零帝であるように、零帝の心の支えも、貴方ということです、水帝」  マスターはリースの隣に移動し、膝の上で握られているリースの手をそっと包んだ。 「零帝が失踪して、一年が経ちました。その間の証拠はゼロ。これだけ探しても何も掴めないということは、零帝は自分から姿をくらませた可能性が高いという事です。そしてそうなると、私達では見つけようがない」  零帝は、世界最強の存在である。  その彼が本気で行方をくらましたら、捜索は困難であり、また常時つけているフードの下はマスターですら知らない為、見つかる可能性はゼロに近い。  だから、そんな彼を捕まえる可能性が一番高いのは、リースのそばだとマスターは判断したのだ。 「貴方を、零帝は愛していました。それはそばで見てればわかります。貴方を見る零帝の視線はいつも熱く、あの冷静な彼が慌てて冷静を装い、ふと零帝を見ると貴方のことを目で追っている事が多くありました。  なので、貴方が頼りなのです、水帝。  貴方の、愛する人のそばには、零帝はいるかもしれません。そして今は、これが一番の有効手段です。  なので水帝……学園へ、通ってくれますね?」  リースは、元々零帝を見つける為だったらどんなことでもするつもりだった。  だから、答えは決まっていた。 「そういうことでしたら、わかりました。必ず、零帝様を見つけてみせます」 「ええ、任せましたよ」  リースは、胸の決意を新たにする。  彼が自ら逃げている、それはきっと何事かに巻き込まれたのであろう。  そして、優しい彼のことだ。  俺たちを巻き込まないように、自分一人で解決しようとしているに違いない。  だからこそ、早く見つけ、事情を聞かなければ。  そして事情を聞いた後で、彼を腕の中に閉じ込めるのだ。  あの人の声、手の感触、抱きしめた時の温もりを想像し、恋い焦がれる。  今やそばにあった温もりは消え、手の届かないところへと行ってしまった。  それを再びつかむ為なら、どんなことも厭わない。  そんな覚悟を胸に、リースはギルドマスター室から退室した。

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