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ギルドマスターの恋人

「終わったか」  1人になったマスターの元へ、歩み寄る人影があった。  彼はマスターに近付き、リースが座っていた場所にどかっと座る。 「……カーリア」  彼は炎帝、カーリア・フォン・カーライアス。  ギルドマスター室にある仮眠室にて、今までリースとマスターとの会話を聞いていたのだ。 「お疲れ様」  カーリアの手がマスター、イルクの頭を引き寄せ、胸板に押し付けた。  密かにイルクが緊張していたのが分かったのだろう。  緊張の糸が解け脱力するイルクを支える。  そんなカーリアにイルクは腰に手を回し、頰をすり寄せた。 「後のことは、任せましたよ」 「ああ。分かっている」  イルクのうなじに口寄せ、顎に手を置きイルクの顔を上げさせ、視線を合わす。 「あいつらの事は、俺がちゃんと見守る。だからイルク、ギルドの事は……」 「分かっています。私はギルドマスター、暗澹としたこの雰囲気を払拭するのも、またギルドマスターの勤めです」  その答えに満足したのか、カーリアはイルクの頰に口付けた。  そして髪を撫でながら、続いて首筋にその唇を押し付ける。 「何かあったら頼れ。すぐに、駆けつけるから」 「……はい。その時は、よろしくお願いします」  唇を親指でなぞる。  そして目を瞑ったイルクに、優しく口付けをした。  目を開けた互いの顔をしばらく見つめ、照れ臭そうに微笑み合う。  それはイルクの、糧だった。  頑張ろうと思える唯一のもの。  彼がいるから、イルクは冷静に物事を考えていられる。  零帝の行方不明という前代未聞の事態を、俯瞰して見る事ができる。  それはカーリアにも言える事であった。  互いに互いを支え、この事態を乗り越える。  手を取り合った末にある未来を、信じて疑わない。  零帝の無事を祈り、イルクはカーリアの腕の中で彼の鼓動を、しばらくじっと聞いていた。

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