6 / 28
ギルドマスターの恋人
「終わったか」
1人になったマスターの元へ、歩み寄る人影があった。
彼はマスターに近付き、リースが座っていた場所にどかっと座る。
「……カーリア」
彼は炎帝、カーリア・フォン・カーライアス。
ギルドマスター室にある仮眠室にて、今までリースとマスターとの会話を聞いていたのだ。
「お疲れ様」
カーリアの手がマスター、イルクの頭を引き寄せ、胸板に押し付けた。
密かにイルクが緊張していたのが分かったのだろう。
緊張の糸が解け脱力するイルクを支える。
そんなカーリアにイルクは腰に手を回し、頰をすり寄せた。
「後のことは、任せましたよ」
「ああ。分かっている」
イルクのうなじに口寄せ、顎に手を置きイルクの顔を上げさせ、視線を合わす。
「あいつらの事は、俺がちゃんと見守る。だからイルク、ギルドの事は……」
「分かっています。私はギルドマスター、暗澹としたこの雰囲気を払拭するのも、またギルドマスターの勤めです」
その答えに満足したのか、カーリアはイルクの頰に口付けた。
そして髪を撫でながら、続いて首筋にその唇を押し付ける。
「何かあったら頼れ。すぐに、駆けつけるから」
「……はい。その時は、よろしくお願いします」
唇を親指でなぞる。
そして目を瞑ったイルクに、優しく口付けをした。
目を開けた互いの顔をしばらく見つめ、照れ臭そうに微笑み合う。
それはイルクの、糧だった。
頑張ろうと思える唯一のもの。
彼がいるから、イルクは冷静に物事を考えていられる。
零帝の行方不明という前代未聞の事態を、俯瞰して見る事ができる。
それはカーリアにも言える事であった。
互いに互いを支え、この事態を乗り越える。
手を取り合った末にある未来を、信じて疑わない。
零帝の無事を祈り、イルクはカーリアの腕の中で彼の鼓動を、しばらくじっと聞いていた。
ともだちにシェアしよう!