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気持ち悪い

「来たか。待ってたぜ」 「……ジーク」  仕事部屋に入ると、いつもはいないはずの人物が、机に背を預けていた。 「何の用かしら?」  彼女が僕を守るように前に立ち、ジークを見上げる。 「俺の用なんて、いつも同じだろ? それを寄越しな」 「アルには私が先に予定を立ててたの。それにここは私の家。不法侵入よ、早く帰りなさい」 「それこそ今更だな。そいつの予定なんてどうでもいい事だ。俺の命令に、そいつはただ従えばいいんだからな。  来いよ。いつも通り、気持ちよくしてやる」  口角を上げたそいつは彼女の後ろにいた僕の腕を掴み、自分に引き寄せる。  下卑た笑いはいつもの事で、このやり取りも、ここ一年ですっかり定例となっていた。 「いいよ、ベル。行ってくる。庇ってくれて、ありがとう」  ベルは泣きそうに顔を歪め、俯いた。  何もできない自分を悔いているのだろう。  でも、ベルは何もできないと分かっていながらも、いつも抵抗してくれる。  僕の諦めやすい心を、いつも支えてくれるのだ。  だから僕は、心を強く保っていられた。  これから始まる行為に、ただ従うだけではなく抵抗を見せる事ができた。 「……っ……」  引かれた腕を僕の部屋であるベッドに放たれ、上からジークがのしかかる。  首筋に付けられるキスマークの痛みと気持ち悪さに耐えながら、彼から視線を逸らした。  近づいていた口は頰に触れ、再び口を追うもまた逸らす。 「抵抗すんじゃねぇよ」  両頬を固定され、無理やりキスされた。  僅かな隙間から侵入してきた舌は執拗に僕の舌に絡み、抑えていても声が漏れる。 「……う、ん……はぁ、あ……あぁ!」  彼の手が僕の胸の尖りに触れ、感じているような声が出た。  慌てて両手で口を抑えるも、その手は呆気なく外される。 「もっと鳴けよ」  耳元で囁かれ、背筋が震えた。  期待から発生した先走りで下着が濡れ、気持ち悪い。  それに気付いた彼は下着に手を入れ、直に僕のものに触れてきた。  胸の尖りを口で吸われ、もう片方は手で転がし、下は上下に扱かれる。 「あっ、ん、……はぁ、あっ……」  快楽の渦に飲み込まれそうになる。  抵抗など出来ない、だから僕はいつも通りに目を瞑った。  脳裏でジークの手がリースに変わる。  子供騙しだけれど、効果は抜群だ。  リースとこんなことをした覚えなど、もちろんない。  だが、彼が触ってくれているのだと思う事で、いくらか救われた。  たまに落ちるキスも、体中にされる愛撫も感触も、イク時に漏れる声を聞かれるのも、全部全部――リースだったらいいのに。 「は、あぁぁ!」 「イッたか」  でもこの声はリースじゃない。  僕の上にいるのは、彼じゃない。  その事が、嫌でたまらなくて……リース以外に体を許してしまっているという、この状況も、リースに合わせる顔がなくて……自然と涙が溢れた。  もう僕は、リースに好きだと言ってもらえる資格がない。  好きだと言い尽くしても足りないこの想いを、彼に伝えることはもう出来ないのだ。  その事が僕の涙腺を緩め、ヒック、という嗚咽が漏れる。  それでも行為は止まらない。  あいつの体を受け入れて、喘いで、イッて、また別の角度から攻められて。  重ねる度に募る罪悪感と気持ちの悪さ、それに快感を覚えてしまったこの体が、ひどく不快で……終わった後はいつも、嗚咽と共に、身体中を引っ掻いていた。

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