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見つけた
「キャー!!!」
「雷帝様、風帝様、水帝様よ!」
「二人揃うのも滅多にないのに、三人も揃っているなんて……」
「眼福ね」
「これからこの三人と同じところに通えると思うと……まずい、死ぬわ」
「生きて! じゃないと、見届けられないわよ!」
「そ、そうね。生きて、遠くから見られる幸福を噛み締めましょう!」
「ええ!!」
「お、おい、あれって……」
「ああ。……やばいな」
「義務教育様々だな」
「そうだな。自分の番号を見たときの感動がぶり返って、涙が溢れそうだ」
「俺もだ。視界が滲んでよく見えねぇよ」
「だな」
リース、シオン、インファスが学園の門の前に現れると、途端に周囲が湧いた。
女子は甲高く歓喜の声を上げ、男子は大人しいながらもチラチラと伺うように見て、誰もが憧れの存在を一目見ようと自然と三人を囲むようにして円ができる。
そしてそれはどんどん大きくなっていき、道行く人の通行の邪魔になった時、インファスが手を大きく叩いた。
「はいはい、もう入学式始まるでしょ? 解散、解散〜。それに、俺らは帝だけど、ここでは一生徒だからそんなに騒がないように! 他の人の迷惑も考えないと、上には上がれないからな〜!」
じゃあ行くぞ、とリースの腕を掴み歩くインファスの行く先では、自然と道が割れ、それ以上付いてくる人はいなかったので静かに体育館前に行くことができた。
「ほら、リース」
校門前に人が集まったせいか数人しかいない体育館前に来ると、二つの長テーブルの上にそれぞれ水晶と ローブが置かれていた。
そこで躊躇いなく水晶に手をかざしたリースに、そばにある銀色のローブが自然とリースの手元に届いた。
ちなみに、水晶にはSの文字があり、それはSクラスであったことを意味している。
この学園は入試試験の魔法の実技でクラス分けがされており、Sクラスは最も成績が良かったクラスである。
リースは入試試験を受けていないが、帝なので当たり前の結果といえよう。
ちなみにローブには水色と銀色があり、銀色は特待生の証である。
リースはローブをさっそく羽織り、軽く身だしなみを整えた。
「ていうか今更だけど、その格好何?」
実は自室の前で会った時から気になっていたことを、リースは口にした。
その視線の先にはシオンがおり、リースの視線を受け止めて首を傾げた。
「……変?」
「いや、変じゃないけど」
「そっか。そういえば、リースの前ではあまりこういう格好してこなかったかもね」
淡々と述べるシオンの格好は、女子生徒のそれだった。
赤のチェック入りスカートを翻し、色素の薄い緑の髪をポニーテールにし、前髪はピンでとめられている。
帝としての活動中はズボンだし、腰まである髪もただ大雑把にまとめてあるだけだし、男と言われれば男の格好をしていただけに、リースは内心結構な衝撃を受けていた。
「え、お前って女子になりたかったの?」
「そうじゃないけど」
「じゃあなんでその格好?」
「なんとなく……かな?」
「なんとなく?」
「うん。それに任務中は動きやすい格好してただけで、普段からボク、こんなんだよ」
二年共にいたはずなのに今更知る一面に、リースは目を見開いた。
だがそもそもシオンとは任務中以外で会ったことがなく、普段の格好など知るよしもないことだ。
知らなかったのは当然だと捉え、そういうものかとどこか納得する。
「ていうか、お前そもそも零帝様しか興味ないじゃん。いっつも零帝様を独り占めしちゃってさ〜。俺らだってたくさん話したいってのに」
「……零帝様は譲らねぇよ」
「そう意味で言ってるんじゃねーよ。それに、俺らの感情はただの憧れだからな。お前のように独占欲垂れ流しとかではない」
「垂れ流しとか……」
「してたからな? 近づくだけで睨んできたじゃねぇか」
「……まぁ、だったかもな」
あの頃の事を思い浮かべて、リースは苦笑した。
零帝様を自分だけのものにしたくて必死だった。
人気者の彼を、自分の方に引き寄せて、いっその事誰の目にも触れないところに閉じ込めてしまいたかった。
でも、自身が惚れたところもまた、零帝様が人を救う姿で。
憧れの姿を自分でなくしてしまうなんてこと、できるはずもなくて。
だから必死にアピールしていた。
零帝様に、好きになってもらえるように。側にいたいと思われるように。
そうして、いつからか二人でいることが普通になっていた。
周りもセットで見始め、当たり前が幸せだった頃。
そんな一年前を思い出し、リースは零帝に想いを馳せる。
ほつれてしまった糸を再び手繰り寄せるために、周りを二人に気づかれないように見渡す。
(いない、か)
零帝様の事は、顔すら知らない。
自分が知っているのは、声と、強さのみ。
圧倒的な魔力量も魔法具で封じてしまえば分からなくなり、頼りになるのは質のみである。
でもそれは実際に魔法を使っているところでしか判断はできず、今出来ることといえば歩き方に隙のない生徒を探るのみ。
さっきからそれはやっているのだが……如何せん、零帝様のような強さを持っていそうな人は一人としていない。
今日、もしかしたら零帝様に会えるかもしれない、と思って内心わくわくしていたのだが、やはり会えないかとまだ入学式が始まってもいないのに落ち込んでしまう。
「じゃあ、入学式頑張れよ!」
「また後でね!」
二人とも別れ、リースは一人新入生が集まっている方向へ進む。
その間も、周囲を観察することを忘れない。
リースの周りには相変わらず人が群がっているが、元々の人を寄せ付けないオーラと、帝という話しかけづらい位に、リースに直接声を掛けてくる者はいない。
クラスが分かれているだけで、後はランダムのイスに座る。
入学式開始まで、あと十五分。
ざわざわと騒がしかった声も席に着く音とともに大人しくなっていき、在校生は居らず保護者がちらほらといる中で、いつ始まるのかという緊張感に包まれる。
そして、埋まらなかったリースの隣の席にも人が立った。
縦に二列ごとに椅子が設置され、S~Eまでの六クラスが前から順に並び、リースは端の方に座っていた。
だから自分の隣の席は直前まで埋まらないだろうと思い、意外に早く隣が埋まったことに目を僅かに見開き、隣を盗み見る。
その、瞬間。
リースは見開いていた目をもっと真ん丸くし、そして口角を僅かに上げた。
――見つけた。
隣に来た男の子を見た瞬間、そう思った。
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