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疑惑の少年

「もう先生、早くしないと入学式始まってしまいますよ?」 「あ、ああ……ちょっと待ってくれ」  カーリアは、職員室にて書類を整理していた。  二年前、帝となった雷帝・インファスの担任なんて恐れ多いと誰もが拒否し、その矛先は炎帝であるカーリアに回ってきた。  同じ帝、加えてカーリア以外の大人といえば土帝、闇帝、光帝しかおらず、土帝は高齢のため後継者探しで忙しく、闇帝、光帝は共に学生から抜け出したばかりで経験値的にも浅く、二人共教えが上手いような性格でもなかったので、カーリアが帝と教師という職業を兼任することになった。  当時の雷帝の学年は高等部一年生。  しかも、三年連続での帝入学に、必然的にカーリアが毎年一年生を請け負うことになっていた。  クラスは、当然ながらSクラス。  成績順になっているこの学園で、Sクラスに帝が入学することは必然であった。  なので、今年もSクラスを担当することになっているのだが……。  今年は、イレギュラーだ。  なにせ、零帝様が入学する可能性がある。  さすがのカーリアも、そのことで多少朝から緊張していた。  尊敬している人に気軽に接することも出来なければ、正体が分からずに知らぬ間に無礼を働いているかもしれないのだ。  なのでそうならぬように、入学試験結果を参考に零帝様かもしれない人物を絞り込んでみてみたのだが……その結果、疑いのある人物は一人のみだった。 ――アルディル・アマルド。  魔力量、一般より少し上くらい、戦闘力、Sクラスでの平均、学力、底辺。  そんな彼だが……質に関して、明らかに帝をも上回っているのだ。  そんな人物は、彼だけだ。  学生とはいえ、帝を上回れるのは……。  そんな彼についての資料をまとめ、カーリアは入学式の会場である体育館へと歩を進めた。 △▽ 「これより、入学式を始めます」  司会の言葉とともに、入学式が進められる。  けれどそんな言葉はリースの耳に入らず、さっきからチラリと隣をしきりに盗み見ていた。 (零帝……様?)  隣には、少年が座っていた。  高等部の学生には見えず、その姿は制服を着ていなければ中等部にしか見えない。  触るとふわふわと手に馴染みそうな髪は赤色をしており、その髪には所々白に近い銀が混ざっている。  切れ長だが垂れ目がちの瞳は優しそうで、綺麗なピンク色をしている唇はそこらの女の子より色艶がいい。  つまり、何が言いたいかというと――弱そうである。  女の子と見紛うような容姿、優しそう瞳、整った顔立ち、百七十センチないだろう小さな見た目。  彼を見た瞬間零帝様だと確信していたものが、観察するうちに段々と自信がなくなっていく。  何より彼は、こちらを見ようとしない。  そりゃ、零帝様は隠れている身である。  でも彼が零帝様だとすると、ちょっとくらい見てくれてもいいのではないか……そう思っても、彼はちらりともこちらを見ないのだ。  いや、逆にこれはおかしいのかもしれない。  リースは、帝だ。  なのでさっきから入学式の最中でもお構いなしに視線は投げられる。  なのに彼は、ちらりともこちらを見ない。  これは、やはり……彼が、零帝様なのか?  疑問を抱くがこんなところで核心に迫る質問を投げかけるわけにもいかず、バレないようにと注意しながら観察を続ける。 「これにて、入学式を終了します。新入生の皆さんは、それぞれの教室に移動してください」  結局、入学式は全く集中できずに過ぎてしまった。  彼の正体も、自分がなぜ彼を零帝様だと判断したのかもわからないが、とりあえず彼と自分は同じSクラスであり、銀のローブを来ていることから、同じ特待生だということがわかる。  関わりはいくらでもあるだろう。  自分のすべきことは、零帝様を見つける事。  疑いがあるのなら、とことん晴らすまでである。  そんな覚悟を胸に秘め、リースは教室へと向かうため、立ち上がった。

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